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香港の公共放送検討委,RTHKとは別の公共放送設立を提言

香港の公共サービス放送の将来を検討する委員会は3月28日,組織的には香港特別行政区の一部である公共放送のRTHKとは別に,新しく独立した編集権を持つ公共放送機構を設立すべきだとした報告書を発表した。この委員会はドナルド・ツァン(曾蔭権)行政長官が2006年1月,商業放送TVBの元ニュース局長など7 人を任命して発足させたもので,これまで海外の公共放送の実態を調査したり,業界や一般市民の意見を聞いたりした上で,公共放送の組織・財務・番組編成などについて検討してきた。

報告書によると,香港に公共放送は必要であり,行政予算を主な財源とする新しい公共放送機構設立のための法律を制定すべきだと提言している。そして新しい公共放送機構は,独立した編集権と番組制作の自主権を持ち,理事会や職員は責任ある態度で言論・報道の自由を行使すべきだとしている。公共放送サービスの果たす主な目的としては,「公民意識の強化と公民社会発展の促進」「社会の融合と多元性の促進」「教育の推進と生涯学習の奨励」「創造性の鼓舞と卓越した気風の追求による香港市民の多元的な文化生活の確保」の4 つを上げている。また,理事会の人数は15人を超えないことが望ましいとした上で,メディア,教育,芸術・文化,科学技術,法律など各界から専門家を起用するよう求め,理事の任期は3 年で2 期までとしている。さらに理事の人選のための指名委員会を設立することや,理事会の下に執行委員会,監査委員会,管理・行政委員会という3 つの常設委員会をつくることも求めている。

財源については,主な収入は行政予算とした上で,ニュース・評論番組を除く番組では商品広告を伴わない形で企業の賛助金を受けたり,寄付金を募ったり,番組などの販売を行ったりすることで副次収入を得るとしている。そして遅くとも公共放送機構設立から10年目には,初年度に交付する行政予算の20%分をこうした副次収入でまかなう目標を立てている。番組内容に関しては,特に商業放送に欠けているものとして,少数派住民・高齢者・子ども・学生などのニーズにあった番組を作るよう促すと共に,芸術・科学・教育の要素を重視し,ニュース・評論番組では正確で全面的かつ深い内容を追求し,番組を教育資源として意識するよう求めている。さらに無料のテレビチャンネルも最低1チャンネル確保し(RTHKは独自のテレビチャンネルを持たずTVBなどの番組枠を使ってテレビ番組を放送している),広東語・英語・北京語による番組を提供すると共に,十分な数のラジオチャンネルを運営し,マルチメディアプラットフォームを発展させるとしている。

今回の報告書では,現在のRTHKを行政府から切り離して公共放送機構に改組する案について,「RTHKは80年近く政府の一部門であり続け,組織・文化の上でもそうした色が濃厚で,改組は職員の身分の問題も含め大きな変化を伴うため適当ではない」と退けている。しかし新しい公共放送機構を設立したあとの RTHKの処遇については明言していないことから,RTHKの経営陣や労働組合からは失望の声が上がっている。また有識者の中にも,RTHKが今後政府の宣伝機関になってしまうのではないかとの懸念が出ている。

山田賢一