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NHKに賠償命令 番組改変訴訟で東京高裁

NHKが2001年1月30日に教育テレビで放送した『ETV2001 問われる戦時性暴力』をめぐって,取材に協力した市民団体「戦争と女性への暴力」日本ネットワークが,当初説明された趣旨とは異なる番組が放送されたとして損害賠償を求めた控訴審の判決が2007 年1月29日東京高裁であり,南敏文裁判長は NHKと制作会社2社に計200万円の損害賠償を命じた。1審の東京地裁は,NHKの賠償責任は認めず,制作会社1社について賠償を命じていた。

高裁判決は,番組制作の最終段階で,普段は制作に立ち会うことが予定されていない NHK幹部の指示で,元慰安婦の証言削除などの改変が行われたと認定した。この改変について,NHK予算の国会審議の時期にあたり,承認を得るため神経を尖らしていた幹部が予算説明のために接触した政治家の発言を必要以上に重く受け止め,その意図を忖そんたく度して,できるだけあたりさわりのない番組にするために修正を繰り返した,と指摘した。

判決は,放送事業者の番組編集の自由は憲法上尊重されるべき権利であり,取材過程を通じて編集,制作が不当に制限されることがあってはならないとした上で,ドキュメンタリー番組や教養番組では,制作の過程で取材者の言動が取材対象者に期待を抱かせる特段の事情が認められるときは,編集の自由も一定の制約を受けるとした。

今回の場合は,幹部の意見が反映されるかたちで番組内容が修正されて以降の編集行為は,当初の番組趣旨とはそぐわない意図から MARCH 2007 75 なされたものとなり,原告の期待と信頼に対する侵害行為になったと判断し,原告の「期待権」を認定した。

さらに判決は,改変以降原告の期待とはかけ離れた内容になったのであるから,NHK は改変内容を説明すべきであったにもかかわらず説明義務を怠ったことによる不法行為責任も負うとした。 しかし,原告らが主張した政治家等がこの番組に対して直接指示し,介入したという点については,幹部が政治家と面談した際に政治家が一般論として述べた以上に「本件番組に関して具体的な話や示唆をしたことまでは,証人らの各証言によってもこれを認めるに足りない」として,政治家等の介入は認定しなかった。

この判決に対してNHKは同日次のようなコメントを発表した。「きょうの判決は,不当であり,極めて遺憾です。直ちに上告の手続きを取りました。

判決は,番組趣旨の説明やその後の取材活動を通じて,相手側に番組内容に対する期待権が生じるとしましたが,番組編集の自由を極度に制約するもので,到底受け入れられません。

また,判決は,政治的圧力は認められなかったとしていますが,NHKが編集の権限を濫用・逸脱した,また国会議員等の意図を忖度して編集したと一方的に断じています。NHKは放送の直前まで,放送法の趣旨に則り,政治的に公平であることや,意見が対立している問題についてできるだけ多くの論点を明らかにするために,公正な立場で編集を行ったもので,裁判所の判断は不当であり,到底承服することはできません」

奥田良胤