メディアフォーカス

批判高まる台湾の選挙報道

台湾では2006年12月に直轄市の台北と高雄で市長選挙が行われ,台北では野党国民党が,高雄では与党民進党がそれぞれ勝利を収めた。この選挙に際して,各放送局や新聞が開票前に行った世論調査と開票速報に問題があったとして,有識者から批判が出ている。

世論調査と選挙結果に大きな乖離

世論調査に関しては,まず大接戦となった高雄市について,ほとんどの社が事前の世論調査の結果として,実際は敗れた国民党の候補が大きくリードしていると伝えていた。例えばテレビ局ではTVBSが4回の調査で14~23ポイント,東森が3回の調査で7.9~12.7ポイント,また新聞では聨合報が4回の調査で9~15ポイント,中国時報が4回の調査で11.5ポイント~22.5ポイント,それぞれ毎回国民党候補リードとなっていた。ほぼ正確な数字を伝えたのは選挙直前に1回調査した自由時報(0.29ポイントの差)だけであった。

背景に多くの「回答拒否者」

こうした問題が起きる要因として,メディア監視NGO「新聞公害防治基金会」の盧世祥事務局長は,各メディアの世論調査に対する回答拒否者が多い点に注目する。各メディアは世論調査方法の詳細を公表していないが,一般的には1,000人前後の有効回答を目安にランダムに有権者に電話をかけているようである。聨合報が12月2日に行った世論調査では,429人が国民党候補を,295人が民進党候補をそれぞれ支持,未定が371人で,回答拒否が185人だった。台湾では従来から,選挙前の世論調査では,民進党の候補の支持率が低めに出るのが一般的で,回答拒否者は民進党支持者が多いと推測されている。実際,2004年の総統選挙のときも,大接戦の末勝利した民進党の陳水扁総統は,ほとんどの世論調査で国民党候補に数ポイントのリードを許していた。

そして民進党支持者が回答を拒否する理由としても様々な指摘がなされている。まず歴史的要因として,これまで台湾では国民党による「権威主義的」な一党支配が長期にわたって続き,利権の分配も国民党を通じて行われてきたことがある。見知らぬ人から聞かれた場合,民進党支持とは答えない方が無難と考える人が多いというわけである。しかし民進党に近い自由時報はたった1回の調査で最も正確な数字が出たことを考えると,民進党支持者には調査主体のメディアによって回答したり拒否したりと,対応を変えている人が少なくないのではないかと指摘されている。これは民進党支持者の間に国民党系メディアへの不信感があることの影響と見られ,特に反陳水扁色が強いTVBS,聨合報,中国時報などで世論調査結果が開票結果と大きく乖離していることがその裏づけとなっている。

今回の選挙後,一部のメディアは調査対象数を増やすことで対応する意向を示したが,先述したような背景があるとすれば,調査対象数を増やすことは問題解決につながらない。盧事務局長は,選挙に関する世論調査は,各社とも自前でやるのではなく,専門性を有する調査機関に委託すべきだと指摘している。

“弱小”候補淘汰の問題も

世論調査に関するもう1つの問題は,「棄保」効果と呼ばれるものである。台湾の政治は,大きく言って「中国色」「統一色」が強い国民党・親民党・新党などの「藍」派と,「本土色」「独立色」が強い民進党・台湾団結聨盟などの「緑」派に分かれ,選挙も通常は二大勢力の激突となる。今回の台北市長選挙には,国民党・親民党・民進党・台湾団結聯盟からそれぞれ候補が立ったのだが,「藍」派の有権者は「藍」派から2 人以上立候補した場合,強そうな方に票を集めようとする傾向がある。実際今回の選挙では,最初の世論調査で劣勢と見られた親民党の候補は,支持率が調査のたびに低下し,実際の得票率は当初の調査より6 ~ 10ポイント低くなった。これについてメディア調査を行っている財団法人「ラジオテレビ基金」は選挙直後の12 月12 日に声明を発表,メディアによるこうした世論調査結果の公表は,「候補者を当選もしくは落選させるため,文字または他の方法によってデマを飛ばすか事実と異なることを伝達することで,公衆あるいは他人に損害を与える者」という「公職人員選挙罷免法」第92 条の違反条項に該当する恐れがあると指摘した。

新聞公害防治基金会の盧世祥事務局長は,総統選挙の場合,直前の世論調査結果の公表は禁じられているが,その他の選挙では明確な規定がないことが問題であり,例えば投票日の1週間前からは世論調査結果の公表を禁止するなどの規定を設けるよう主張している。

開票速報で“スピード違反”

一方,開票速報に関しては,各テレビ局ともスタジオに「速報センター」などを設置して投票終了の午後4 時から一斉に速報を開始した。ところが,他社よりもかなり早いスピードで票が出ていた民間全民テレビ(民視)では,親民党候補の中間票が一時的に最終票を上回っていたことが分かった。この候補の最終票は5 万3,281票だったのだが,民視では午後5時45分の中間票が5万5,943 票,6時から7時15分までの中間票が5万4,296票,そして7時半の中間票が4万9,974票と,時間が経つごとに票が減っていたのである。メディア関係者の間では「またか」という反応が見られた。

実は2004年の総統選挙の際,台湾の大多数のテレビ局が同様の苦い経験をしている。2人の候補の最終得票は,当選した陳水扁氏が647万票あまり,落選した連戦氏が644万票あまりだったが,2人のうち1人もしくは双方の中間票がこの最終票を上回ったテレビ局は,台湾テレビ・中国テレビ・中華テレビ・ GTV総合・TVBS・年代・東森・中天・民視の9局に上ったのである。中央選管の公式票をベースに報道していたのは,公共テレビだけだった。各局はいずれも技術的なミスなどと説明していたが,メディア研究者の間では他局よりも速いことを売り物にするため,各局とも“推測”で票を出したというのが定説となっている。

この「事件」を受け,国民党系の中国テレビを除く各局は,2004年末の立法院(国会)選挙では中央選管の公式票だけを使うことで合意したのだが,今回の選挙では協定は死文化し,過去の悪弊が再現する形となった。

台湾のメディアは,2,300万人の人口規模に対して150ものテレビチャンネルが割拠する典型的な「過当競争」の状態にあり,各局とも金をかけずに視聴率を上げるために日々四苦八苦しているのが現状である。メディア関係者は,様々な弊害が噴出する選挙報道も,過当競争の構図が続く限り,改善するのは容易ではないと指摘している。

山田賢一