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大詰めに入った英政府のデジタル完全移行策

イギリス政府は2006年11月15日に,今国会で「デジタル移行法」(Digital Switchover〈Disclosure Information〉Bill)を上程することを明らかにした。これは,デジタル完全移行を前に,公共放送のBBCが,高齢者等のデジタル支援を行う必要上,労働年金省と退役軍人局が持つ対象家庭の情報にアクセスできるようにするための法律である。

イギリス政府は,一昨年(2005年)の9月に,地上デジタルテレビ放送への完全移行日程を決定し,すべての国民が取り残されることなくデジタルテレビを受信できるようにすることを発表した。その際,デジタル情報にうとく,あるいは身体に障害のある人々に対し特別な支援策を行う方針を示した。

イギリス政府のデジタル移行計画は,アナログ放送の中止を2008年からITVの地域放送免許ごとに開始し,2012年に北アイルランドやイングランド東部およびロンドンで完了させるというもので,完全に終了するまで5年の時間をかける。各地域におけるアナログ放送中止のプロセスには3か年を見込んでおり,1年目は視聴者のアナログ放送の中止についての認知を高め,2年目に具体的なデジタル受信方法の知識を提供するとともに,受信支援策を行い,3年目にアナログ放送を中止する。全国で最初のアナログ放送の中止地域に当たるボーダーでは,2006年7月にアナログ放送の中止について告知が開始され,いよいよ各家庭におけるテレビ放送のデジタル受信の段階に入る。まさに,イギリスのデジタル完全移行のプロセスが大詰めを迎えている。

イギリス政府は,この最後の仕上げともいえる家庭におけるデジタル移行支援について,BBCがその重要な任務として担うことを2007年から発効する新特許状で規定し,受信許可料収入で賄う方針を示している。今回の政府支援策の対象は,約400万人と見込まれ,詳細は次の通りである。

  • 75 歳以上の家族がいる全世帯
  • 重度の障害者や視覚障害者(全盲・弱視)がいる全世帯
  • 生活保護や失業保険受給世帯等については無料で支援を受けることができ,その他の世帯には,若干の支払いが生じる
  • 1世帯につき1台のテレビ受信機をデジタル化するための機器の提供とその設置および使用方法のサポートを行う
  • 支援対象世帯は,地上放送・衛星放送・ケーブルテレビのどのプラットフォームも選択できる

今回上程された「デジタル移行法」は,こうした支援策をBBCが行うために,年金生活者等の個人情報の開示を目的としている法律で,ほぼ通過することは間違いない。しかし,野党である保守党国会議員の間では,支援財源は受信許可料ではなく,福祉政策の一環として税金で賄うべきであるという意見が根強くあり,BBCの特許状更新に関する上院特別委員会も同様の意見を表明した。一方,デジタル移行支援策を含めた受信許可料の値上げについては,まだ決着をみていない。BBCは2005年10月に,受信許可料を2007年4月から,小売物価指数に2.3%上乗せした率の値上げを要求したが,その後値上げ率を 1.8%に抑え再提案した。BBCと政府との値上げ交渉も大詰めを迎えている。

中村美子