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独,ブンデスリーガ専門チャンネルArena開始

~攻勢にでるドイツのデジタルケーブルテレビ~

8月8日,ドイツのサッカー・ブンデスリーガ新シーズン開幕に合わせ,新しい有料デジタルチャンネル「Arenaブンデスリーガ」の放送が始まった。この Arenaは,ドイツの大手ケーブルテレビUnity Media(以下Unity)の傘下にある。Unityは,キラーコンテンツを武器に,伸び悩んでいるドイツのデジタルケーブルテレビの成長にはずみをつけようと狙っている。

話題をさらったブンデスリーガ放送権獲得Unity は,2005年6月,それまでのドイツ第2位と3位の事業者が合併して誕生した大手ケーブルテレビグループで,ドイツ全体のケーブル視聴世帯の37%にあたる約700万件の契約世帯を持つ。資本の過半数は,英米の投資ファンドApollo ManagementとBC Partnersの所有である。

同年10 月,Unityはブンデスリーガ放送権獲得を狙って子会社Arenaを設立し,12月に行われた2006~ 08 年シーズン放送権の入札で,第1・2 部の全試合生中継の権利を2億4,000万ユーロ(約360億円)で獲得した。

1991 年以来ブンデスリーガの生中継は,衛星有料放送Premiereが行ってきたが,この独占体制が,突然登場した無名のArena によって初めて破られたことは大きな話題となった。Premiereの株価は一時入札前の30%にまで下落し,解約者も8月までに12 万件に達したと報道された。

さらに,ケーブルテレビ事業者Unityがキラーコンテンツを所有することで,ドイツで初めて,伝送路と番組事業のいわゆる垂直統合が生まれたことも注目を集めた。3月にArenaに免許を交付する際,規制機関はUnityに対し,他の事業者の番組を差別的に配信することのないよう求めている。

なお,公共放送のARDとZDFはこれまで通り,全試合のハイライト放送権を獲得しているほか,各シーズン前・後半戦の開幕試合を生中継する権利も保障されている。

デジタルケーブルの追い風としての期待「Arenaブンデスリーガ」は,通常の生中継の他,分割画面による最大6試合同時中継や,ダイジェスト放送,解説番組などから編成され,料金は月額14.9ユーロ(約2,200円)である。これまでのPremiereのスポーツパッケージの34.8ユーロの半額以下という,視聴者には魅力的な価格設定となった。

Arenaはその後,Unity以外のケーブル事業者とも配信提携を進め,デジタルケーブルに加入すれば「Arenaブンデスリーガ」は全国どこでも見られるようになっている。

ドイツは伝統的にケーブルテレビ世帯が多いが,その内の90%以上がいまだにアナログケーブルによる視聴である(2005年7月時点)。ドイツのアナログケーブルは,主要約30チャンネルを視聴でき,セットトップボックス(STB)は不要である。この簡便さに比べ,デジタルケーブルではSTB購入負担がかかるうえ,これまで特に魅力的なコンテンツがなかったため,視聴者はアナログ視聴に留まる傾向にあった。Unityについても,2006年1月時点で 700万件の契約世帯のうち,デジタル契約はわずか約12万件である。

デジタルでスクランブル配信される「Arenaブンデスリーガ」は,こうした停滞するドイツのデジタルケーブルの加入拡大の起爆剤になるものと期待されている。

杉内有介