メディアフォーカス

香港,メディアの商業主義が問題に

香港で最近,メディアの過剰な商業主義に起因すると見られる事件が相次ぎ,有識者から批判を浴びている。6月2日,CommercialRadio(商業電台)の番組『So Fab』(架勢堂)の中で,聴取者に対して,20人の女性タレントの中から「最も強制わいせつをしたい」対象を選ぶというネットアンケートの呼びかけがなされた。これに対し聴取者から抗議の声が起こり,Commercial Radioでは2日後にテーマを「最もセクシーな女性芸能人」に切り替えたが,「女性に対する性暴力対策協会」など11 の団体は放送監督機関であるBroadcasting Authority(BA=放送業務管理局)などに番組に対する抗議の申し入れを行った。事態を重く見たCommercial Radio は番組の司会者であるSammy Leung(森美)とKitty Yuen(阮小儀)の2人を2か月間出演停止とする内部処分を行った。しかしBAは6月15日,「司会者は強制わいせつがあたかも冗談で済むような軽い問題だと聴衆に誤解させた」などとして,その言論は低劣なものと断じた。そしてCommercial RadioはBAが定めたラジオ番組規則のうち暴力や性について過度に強調してはならないことをうたった第16項など,複数の項目の規定に違反したとして,14万香港ドル(約210万円)の罰金を科した。また同時に公式な謝罪を放送することと,3か月以内に改善措置の進捗状況についての報告書を提出するよう求めた。これに対しCommercialRadioはBAの処分が出た当日,「処分を真摯に受け止める」との声明を放送して謝罪し,再発防止のため社員向けの放送倫理研修を導入する方針を打ち出した。

これに先立つ4月末,インターネット上にバスの車内で2人の男が口論する様子を撮った映像「Bus Uncle」が公開された。携帯電話をバスの車内で使い,大声で話していた中年の男性に対し,若い男性が声を小さくするよう肩を叩いたところ,中年の男性が急に怒り出したという,たわいもない話だったが,近くにいた乗客が6分間ほどの一部始終をビデオにおさめネット上の「YouTube」という映像投稿サイトで公開したところ,300万回の視聴を記録する大ヒットとなった。そして中年の男性が話した「俺にはプレッシャーがある。おまえにもある。なぜ俺を挑発するのか?」といった言葉は香港市民の間で流行語ともなった。この「Bus Uncle」が話題になると,放送・新聞・雑誌など各メディアの間で,若い男性や中年の男性の単独インタビューを争う激しい取材合戦が始まった。そしてついには一部のメディアが中年の男性に若い男性を訪問するよう仕向け,同行するまでになったが,若い男性は事前の約束がなかったことを理由に面会や取材を拒否,有識者からは「メディアはニュースを報道するのでなく,ニュースを作り出している」と厳しく批判された。香港研究の専門家は,「香港のメディアでは,大衆路線を追求する2大紙が,系列の週刊誌を含めて激突する中で,売れるとなると,なりふりかまわず報道する」と分析している。

メディア批判を招いた2つの例に共通するのは,香港メディアの過剰なまでの商業主義だが,最近はインターネットに様々な面白いコンテンツが流れるようになり,放送や活字メディアの危機感が高まっていることが背景にあるとの指摘も出されている。

山田賢一