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NHKの「視聴者への約束」 外部委員会が初の評価

NHK “約束”評価委員会は2006年6月27日,NHK が初めて行った「視聴者への約束」に対する評価を公表した。

NHK は相次ぐ不祥事が明るみに出て受信料の支払い拒否等が増えていた2005年6月に,信頼回復のための取り組みの一つとして,初めて「視聴者への約束」を発表した。

2005年度の“約束”は,(1)受信料にふさわしい,豊かで良い番組の充実,(2)受信料の公平負担の徹底,(3)視聴者の声の事業運営への反映,(4)不正を根絶し,透明性と説明責任を重視する運営,(5)経費の節減,効果的で効率的な事業運営,(6)デジタル技術の成果の視聴者への還元,の6項目であった。

公共放送の視聴者への約束は,イギリスのBBCが1996年に国王の特許状(放送免許)の更新にあたって,政府との協定書に基づき発表したのが最初である。BBCはこのとき,(1)質の高い番組と正確で偏りのないニュースを放送する,(2)政治その他の偏見から自由を守る,などの約束をしている。BBC では,約束がどの程度果たされたかの評価はBBC経営委員会が行ったが,NHK の場合は,NHKから独立した評価委員会を設置し,委嘱された兵庫県立大学教授の辻正次氏ら3人の外部委員が,2005年度の“約束”の評価を行った。

NHK“約束”評価委員会は,NHKに対する視聴者の信頼回復がどの程度図られたのかを,視聴者の視点から定量的・多角的に検証した。NHKが約束したのは6項目であったが,いずれの項目も総論的な表現であったため,評価委員会では,各項目をより具体化して8分野に分けて評価点をつけた。評価は5段階評価で,約束が達成された場合が「5」,最低評価が「1」である。

約束1 「番組の充実」

8分野のうち「緊急災害報道の充実」については「5」。「視聴者への判断材料の提供」と「教育放送の充実」は「4」。「福祉番組の充実」と「地域放送の充実」については,いずれも「3」。NHK 番組への期待度は「4」。しかし,視聴者の満足度は「3 」で,満足度は民放と同水準であったと評価した。NHK 番組の視聴時間・接触度については,前年度に比して向上がなかったとして「2」の評価であった。

NHK が「受信料にふさわしい,豊かで良い番組を充実します」と約束したことから,評価委員会は「受信料にふさわしい」か否かの判断をするために,視聴者が考えるNHK の放送サービスの価値を金銭的価値に換算する調査を実施した。この調査はCVM(仮想市場価値法)の手法を用いて行われた。CVM とは,価値判断が難しい事柄を,それが市場で取引されると仮定して金銭的価値に換算して評価する手法で,2006年4月に層化2段無作為抽出法で抽出した 3,600人を対象に面接方式で実施された(有効回答率は56.1%)。

調査結果によるとNHK の放送サービスに対する支払意思額は,地上放送は視聴者1人当り月額約1,780円,衛星放送は月額約1,245 円で,現行受信料額(地上カラー契約月額1,395円,衛星付加料金945 円)を上回った。

約束2 「受信料の公平負担の徹底」

受信料制度への理解・認知度の分野では,視聴者の8割が制度を知っていたことから評価は「4」。しかし,NHK が受信料を公平に集めていると視聴者が考えているかどうかの分野についての評価は「2」だった。受信料の支払い拒否・留保についても,減少に転じてはいるが,累積ではまだ100万件以上残っているとして評価は「2」となった。この項目の評価は全体的に厳しい内容となっている。

約束3 「視聴者の声の事業運営への反映」

視聴者の声の収集体制については,仕組みは整備されているとして評価は「4」。しかし,視聴者との対話施策の啓発効果の評価は「2」。視聴者の声の事業運営への反映に関する視聴者の期待度・満足度も「2」の評価であった。視聴者の声が実際にどれだけ事業運営に反映されたかは,定量的に確認できないとして,評価は「3」となった。

約束4 「不正の根絶,透明性・説明責任」

その後も職員の不正が明るみに出たことから,不正の根絶についての評価は最低の「1」。視聴者から見た事業運営についての評価も「1」で,NHKの信頼は回復されていないとの評価であった。また組織風土の変化,職員の規律意識の変化についても,職員個人には変化が見られるが組織風土の改革は十分とは言えないとして「2」の評価であった。

約束5 「経費の節減,効果的・効率的な事業運営」

事業経費の総額節減には努力が見られたとして評価は「4」。また,職員個々のコスト意識の高まり,行動の変化についての評価は「3」。しかし,事業別コストと成果情報の整備と活用は,現状では不十分であるとして評価は「2」であった。

約束6 「デジタル技術の成果の還元」

NHK が行う長期的な視点での基礎研究については,外部の専門家から高い評価を受けているとして「5 」。デジタル技術の開発については,特許出願件数,技術協力件数,副次収入が前年度に比べて増加しているとして,商品・サービスの開発に果たす役割についての評価は「5」。また,地上デジタル放送のカバーエリアについても,当初予算より少ない投資額で2,840万世帯をカバーしたとして,評価は「5」であった。

NHK “約束”評価委員会は,評価結果から見られる今後のNHK の課題として,

  • (1) NHK の業務改善は個々の職員の努力の範疇にとどまっており,厳密な経営管理の仕組みとして組織に定着させる必要がある。
  • (2) 視聴者の生活・行動の変化に合わせ,5 ~10 年単位の長期的展望に立った番組作りと提供手段の革新が必要である。
  • (3) 受信料制度に関しては,視聴者の多くが課題を認識した状況であり,視聴者の納得感の高い仕組みを検討し,国民的な議論を惹起する必要がある。
  • (4) 視聴者の求めに応じるだけではなく,当事者としてのNHK が公共放送をどう考えるかを打ち出す時期に差し掛かっている。

との見解を打ち出した。

「評価」に対しNHK は,7 割を超える幅広い世代の視聴者からの支持を得たこと,CVM 調査によりNHK の創出している価値に対する支払意思額が受信料額を上回る一定程度の規模になったこと,幅広い番組ジャンルが視聴者から期待されていること,などが示されたとして,NHKの取り組みが一定の評価を得たとする一方,コンプライアンス等において決して成果が十分とは言えない取り組みがあることも厳粛に受け止める,との見解を明らかにした。

奥田良胤