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受忍限度超えれば名誉侵害バラエティー番組でBRCが初の判断

放送と人権等権利に関する委員会(BRC)は,関西テレビが放送したトークバラエティー番組で,出演者の話に笑いでは済まされない名誉侵害があり,受忍限度を超えていたとして,関西テレビに,企画・編集体制を整え再発防止につとめるよう勧告した。

この番組は,関西テレビが2005年6月25日と7月9日に放送したトークバラエティー番組『たかじん胸いっぱい』。女性タレントがゲスト出演して,離婚が取りざたされていた夫婦の私生活を暴露し,これをメインに番組が構成された。この放送に対して,当時の夫(後に離婚)から「自分を侮辱・愚弄する人身攻撃発言が放送され,回復困難な精神的苦痛を受けた」「自分は私人であり,番組には公共性,公益性はない」としてBRC に審理の申し立てがあった。

これに対して関西テレビは,「番組は女性タレントが自らの婚姻生活を語ったトークバラエティー番組である。報道番組とはその目的,番組作成も異なり,相手方への反面取材,承諾等が必要な番組形態ではない。反面取材等が必要とすれば,エンターテイメント性が損なわれ,自由闊達な番組作りが阻害される」「全体的な考察としては,申立人の名誉を棄損するものとは言い難い。夫婦の一方が芸能人であり,他方も結婚生活をバラエティー番組に提供し,視聴者に強い関心を持たせた当事者であるならば,なおさら本人の承諾がないことをもって,プライバシー違反を論じるべき事例ではない」「女性タレントと申立人との婚姻生活はセレブ婚と呼ばれて一般人の関心を呼んでおり,公益性や公共性を有する事柄である」などと主張した。

BRC のこれまでの審理案件は,事実の正確性,真実性が重要な報道番組であり,娯楽性の強いバラエティー番組における名誉侵害についての審理は初めてであった。 BRC は,報道番組に比してバラエティー番組にはより広い許容度があることを認めたうえで,許容限度を超えた違法性,不当性があるかどうかを判断の基準とした。

BRC は「この番組は録画番組であり,放送までにどの部分を放送し,どの部分を削除すべきか検討する時間的余裕があった。女性タレントの発言の一部については音声を消しているが,その余の部分についてはそのまま放送していることから見て,放送局側はそれらの発言が申立人の受忍できる範囲と判断したものと考えられる」とし,その放送局の判断が適切ではなかったと指摘した。

BRC は,放送された部分の女性タレントの発言は,申立人の私生活を必要以上に暴露し,夫を揶揄しているものと認定した。BRCは「笑いでは済まされない名誉の侵害,私生活の暴露にあたり,それがどのような立場である人についてであれ,受忍の限度を超えているといわざるをえない」として関西テレビに再発防止のために,企画・編集体制を整備するよう勧告した。

この案件の審理にあたったBRC の委員は,審理結果公表の記者会見で,「番組に出演するタレントには,放送局側の企画意図を察知し,企画に沿うような発言をする傾向がある。したがって,番組を企画するTV 局にはより人権に対する感覚を磨いてもらいたい」と述べた。

奥田良胤