メディアフォーカス

外資比率“100%”で罰金処分に

~台湾の衛星テレビ局TVBS~

台湾のケーブル向け衛星テレビ局大手TVBSの実質的な株主が100%香港資本であることが明らかになり,メディアを管理する行政院新聞局は11月9日,衛星ラジオテレビ法第10条に違反するとして,100万元(約360万円)の罰金と12月20日までの改善を求める処分を下した。

TVBSは,香港の地上テレビ局TVBと台湾の番組制作会社「年代集団」が1993年に共同で設立したテレビ局で,現在は総合・ニュース・娯楽の3チャンネルを擁し,ケーブル向けの衛星テレビ局としては東森と並ぶ大手である。TVBSの資本はこれまで年代が30%,TVBがバミューダに設立した投資会社が47%,台湾の東方彩視が23%を所有していたが,年代が経営から手を引き,2005年3月段階では東方彩視の持ち株比率が53%となっていた。 TVBSでは外資比率は47%と申請して夏の免許更新を乗り切ったのだが,10月に与党の立法委員(国会議員)が東方彩視の株主は全てTVBのバミューダの投資会社であり,実質は100%香港資本であることを指摘した。このため新聞局では再調査を行った上で,「実質的な状態をもとに判断する」(ラジオテレビ課)として罰金処分を下した。

TVBSは処分発表直後に,「衛星ラジオテレビ法第10条の規定では,直接投資が50%未満と書かれているだけで,TVBの間接投資に法的問題はない」として罰金の納付に応じない姿勢を示したが,その後は沈黙を守っている。一方,この問題が取り上げられる直前にTVBSが陳水扁総統の側近のスキャンダルを暴露していたことから,野党側は政治的な報復による言論弾圧だと批判した。これに対し与党側は,TVBSの一部の理事が中国の全国政治協商会議常務委員を務めていることなどを指摘し,台湾の主要テレビ局が中国の影響下にあることは安全保障上の問題だと主張した。

7月末にニュースチャンネル「東森新聞S台」の免許取り消し問題で欧米のメディア団体から批判を受けた台湾の当局は,11月1日に陳水扁総統が「自分の任期中には1つのテレビ局も閉鎖させない」と述べるなど,野党への融和姿勢を示し,妥協への道を探った。ところが同じ時期に,野党政権下の台北市で,副市長が市政担当の記者に報道面で圧力をかけているとする文章が台湾新聞記者協会の刊行物に掲載された。さらに同じく野党政権下の桃園県では,12月の県長選挙を前に現職の候補を批判するビデオCDが,出版の直前に県の警察当局から選挙違反の疑いで押収され,その後ビデオCDの出版を強行した制作者が逮捕される事件が起き,「言論の自由」をめぐる与野党の非難合戦はピークに達した。

TVBSの資本構成の問題で台湾大学新聞研究所の洪貞玲助教授らメディア研究者のグループは声明を出し,政治抗争に巻き込まれず外資規制の法律・政策に則して検討すべきだと提言した。声明では政府当局に対して公権力の乱用を戒めると共に,TVBSに対しても憶測に基づいた言論で視聴率の向上を図ったり,外資規制の抜け穴を利用したりすることがないよう求めている。また,放送メディアにおける外資規制は世界中で行われているとして,直接投資に限った現在の規制の条文についても,再検討するよう求めている。

山田賢一