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“アルカイダに協力した”アルジャジーラ記者に禁固7年

9月26日,スペインの法廷はアルジャジーラのタイシール・アルーニ記者に対し,アルカイダに協力した罪で禁固7年を言い渡した。

アルーニ記者は,アルジャジーラを代表する記者であり,アフガニスタン戦争やイラク戦争の取材で活躍した。特に2001年のアフガニスタン戦争の際には,唯一カブールに残った外国テレビ局の記者として,アメリカ軍の空爆による市民の被害を世界に発信し,ピンポイント爆撃の実態を明らかにした。またタリバンやアルカイダの取材でも,深く食い込み,2001年10月にはビンラディン容疑者にインタビューを行っている。

アルーニ記者はシリア生まれだが,1988年にスペイン国籍を取得しており,しばしばスペインに滞在していた。一方テロの摘発を進めるスペイン検察当局は,2003年9月,アルカイダの「スペイン細胞」とされるグループのメンバーを逮捕した。その際休暇でスペインに滞在していたアルーニ記者もこのグループの一員だとして逮捕された。

2 年に及ぶ裁判で検察側は,アルーニ記者は,アルカイダの「スペイン細胞」のメンバーで,現金の運び役として一連のテロに加わったとして追及した。これに対してアルーニ記者はタリバンやアルカイダとの接触は取材上の常識の範囲内で,あくまでジャーナリストとしての取材だった。ビンラディン容疑者とのインタビューもたまたまカブールに残った唯一の外国人記者だったからだと反論した。しかし判決ではアルーニ記者が「スペイン細胞」のメンバーではなかったと認定したもの の,アルカイダに協力していたとして禁固7年の刑を言い渡した。

この判決に対してアルジャジーラのシェイク編集長は,「プレスにとって暗黒の日となった」と述べ,次のコメントを出した。

「判決は不当で,ジャーナリズムの歴史とそこに働く者にとって危険な先例となる。アルジャジーラはアルーニ記者のジャーナリストしての勇敢さと正当性を守るため,弁護人を通じて控訴を支援するとともに,スペイン検察当局に対しては,アルーニ記者の健康状態に配慮し直ちに保釈するよう求める」。

アルーニ記者は,アフガニスタンから帰国したあとドーハで心臓手術をうけており,主治医は継続的な健康チェックが必要という。

アルーニ記者への判決は世界のメディア関係者に衝撃を与えている。国境なき記者団や国際プレス・ユニオンなどが「判決は報道の自由に対するあからさまな妨害だ」などと批判する声明を発表した。特にアラブ各地で反発の声があがり,人権団体ファディ・アルカディは「この判決はジャーナリストとテロリストを区別する能力がないことを示している」と非難している。またアルジャジーラのハマド会長も「記者が秘密組織に情報源を持つことは,記者として誇れることであり,それがために裁判にかけられることがあってはならない」と訴える。

今回の判決の結果,今後記者が不法な組織と接触,交渉して取材をすることが極めて困難となり,調査報道ができなくなる可能性があるだけにアルジャジーは,スペインの上級裁判所,ヨーロッパ裁判所などあらゆる方法で,取材の正当性を主張するとしている。

太田昌宏