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英政府,2012年にアナログ放送 完全中止を発表

イギリスの放送を所管するテッサ・ジョウエル文化メディアスポーツ相は9月15日,ケンブリッジで開催されたロイヤルテレビジョンソサエティの年次大会における基調講演で,2012年にアナログ放送を停波し,地上デジタルテレビ放送へ完全移行することを発表した。また同時に,デジタル完全移行の過程で誰も取り残されないことを保障するための支援計画を発表し,その費用に受信許可料を充てBBCが遂行することを明らかにした。

アナログ放送停波の方法は,2008年から2012年にかけて商業テレビのITVの免許地域ごとに行われ,最後の停波地域は,イングランド南東部,ロンドン,イングランド北部,北アイルランドが予定されている。イギリスでは,1998年秋に地上デジタルテレビ放送が開始以来,BBCの2つのチャンネルや商業チャンネルのITV,チャンネル4,チャンネル5が公共サービスチャンネルとしてアナログとデジタルで同時放送されてきている。現在,これらのチャンネルを伝送するデジタル周波数帯は,全国を80%カバーしている。アナログ放送停波後は,デジタル放送の出力を上昇させたりすることで98.5%までカバー地域が拡大し,アナログ放送とほぼ同等のユニバーサル・サービスが提供される。地域ごとにアナログ放送を中止する方法を採用したのは,利用できる周波数帯の確保やデジタル受信機を視聴者に購入してもらうための宣伝周知期間などを考慮し,放送事業者や視聴者に最も負担のかからない方法と判断されたためである。

このデジタル放送への完全転換の計画にいたるまで,2001年に政府はデジタル・アクション・プラン・プロジェクトを設置し,官民一体となってデジタル移行に関する検討を進めてきた。政府がアナログ放送の中止時期を確定したことで,イギリスのデジタル放送は100%普及に向けて,新たなスタートを切ったと言えるだろう。また,デジタル・アクション・プランから組織された非営利団体Switchcoが,名称をDigital UKに改め,視聴者がスムーズにデジタル移行できるように様々な情報を提供する任務を果たすことになった。

一方,ジョウエル担当相はこの発表の中で,公共放送のBBCがデジタル転換という事業に重要な役割を果たすと言明し,高齢者や身体に障害のある人々がデジタルテレビを受信できるようにするため,BBCがデジタル受信機の設置や受信方法のアドバイスなどを支援し,この費用が受信許可料で賄われると述べた。この発表で明らかになった支援対象の枠は,75歳以上の高齢者がいる全世帯と付き添い手当てや生活保護を受ける重度の障害者がいる全世帯とされ,75歳以上の高齢者世帯は無料でこの支援サービスを受けられるが,障害者世帯については,障害の程度に応じて無料あるいは小額料金の支払いが求められる。

政府とBBCの間では,2006年に更新される特許状の内容に関する議論と並行して,受信許可料の料額設定について交渉が行われており,年内に発表される見込みである。2000年から導入された75歳以上の高齢者世帯の受信許可料免除措置は,政府が税金で賄ったという経緯があるが,BBCは,イギリスの全国民をデジタル化することは,将来ビジョンの公共的目的に一致するとして,政府と協力して支援することを表明している。

中村美子