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カナダの放送権,大幅アップでCTVに

Bellは地上波全国放送のCTV(英語)を中核に,ケベック州のTQS(仏語),スポーツ専門チャンネルのケーブルテレビTSN,RDSなどを傘下におくカナダ最大の商業ネットワークであり,Rogersはケーブルやラジオを運営する中堅メディア企業である。両社の権利は,地上波,衛星/ケーブル,ラジオのほか,新設のインターネットと携帯電話の映像配信権を含んでいる。放送権料は1億5,300万米ドル(約161億円)。内訳は10年冬が9,000万ドル,12年夏が6,300万ドルで,それぞれ前大会の06年トリノを220%,08年北京を40%上回る,平均110%アップの猛烈な値上がりとなった。バンクーバーが地元とはいえ,冬季大会が夏季大会を上回った例はない。

カナダではCTVが,1984年サラエボから94年リレハンメルまで,冬季大会だけ4回連続で放送したことがあるが,それ以外はすべてCBC(カナダ放送協会)が行ってきた。CBCは放送権だけでなく,自国開催の大会で公共放送の面目も失う格好となった。

2010,12年大会の放送権は,すでにアメリカ(NBC),ヨーロッパ(EBU)が契約を済ませ,これでIOCの大口交渉相手は日本とオーストラリアを残すのみとなった。

これらの合意で共通する特徴は,放送権料の凄まじい高騰と,放送権以外の新設の権利も,まとめて放送局が獲得したことである。

NBCは22億100万ドル(約2,421億円)の巨額ですべての権利を獲得したが,これはトリノ,北京の合計を6億9,400万ドル(46%増)も上回る。このうち2億ドルは親会社のゼネラル・エレクトリックが,05年から8年間,公式スポンサーになる権利料として上乗せをした,過去に例のない契約である。アメリカの放送権獲得競争は,放送局の枠を超えて親会社であるコングロマリットの総力戦となった。NBCもまた,国内四大プロスポーツからの全面撤退という,いわば異常事態での勝利だった。ライバルCBSは入札に参加さえしなかった。

EBUは7億4,600万ドルで契約した。前2回比は29%増だが,有力機関のRAI(イタリア放送協会)が負担金をめぐってプールから離脱するという,思わぬ代償を伴った。鉄の結束を誇ったEBUには将来の不安材料である。域内51か国の加盟機関は,放送,ネット,携帯電話権を得た。イタリアが,結果として高い買い物をするであろうことは自明である。

オリンピック放送権は,シドニーから北京までの夏冬5大会,長期契約により1大会10数%の値上げ率で抑えてきた。長期契約で莫大な利子を得るIOCと,安定供給を望む放送の思惑が一致した結果の,知恵であった。

しかし,IOCは2010年からインターネットや携帯電話など,放送以外の手段の映像配信権を新設した。今のところ,ネット映像を国境で止める確実な方法がない中で,国境限定が前提の放送権を崩壊させないためには,当分の間,放送にすべてを預けるというIOCの意図が透けて見える。

曽根 俊郎