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メディアフォーカス

英BBC,新構造改革案を発表

イギリスの公共放送BBCのマーク・トンプソン会長は先月(2004年12月)7日,BBCの構造改革案を発表した。これは,6月に発表したBBCの将来ビジョン「公共的な価値の構築」を実現するための具体策であるが,人員削減を含む経費節減や配置転換等を中心とした厳しい内容となっている。
BBCは6月に将来ビジョンで示した公約を実現するために,局内に「資金に見合った価値」「ロンドンからの移転」「コンテンツ供給」「商業活動の見直し」の4つのレビュー・チームを設け検討してきた。以下の改革案は,このレビュー結果を土台に練られている。
構造改革案のポイント

1.資金に見合った価値

  • 2,900人の人員削減
  • BBCの職員数(子会社を含む)は現在全世界で約27,000人だが,このうち,人事,財務,法務,経営戦略,広報といった専門能力を有する管理部門と,その他の一般事務部門による管理間接部門の職員を2,500人,ノンフィクション・学習番組部の職員から400人の合計2,900人を今後3年間で削減。なお,管理間接部門の人員削減は,ポスト削減と外注による。
  • すべての番組制作現場において,15%の経費節減を行うため現在具体策を検討中。これは,3月末に発表見込み。
  • 上記の方法によって,2007年までの間に3億2,000万ポンド(約640億円)の経費節減を行い,将来ビジョンに示したきめ細かなローカルテレビサービスやブロードバンドサービス,BBCならではの質の高い番組サービスの提供に充てる。

ロンドンからの移転

  • ロンドンの本部から,子ども向けのラジオとテレビ番組,BBC Sport,ラジオのRadio Five Live(ニュース・スポーツ)とFive Live Extra,ニューメディア本部,研究開発,新規計画のデジタル・カリキュラムを含む学習の各部門がマンチェスター(イングランド北西部)に移転する。
  • これによって,1,800人の職員が異動。
  • 機能移転には6億ポンド(約1,200億円)の経費がかかると見られ,実施は3年から5年後に予定。

コンテンツ供給

  • BBCは,ニュース番組等を除いた放送番組の25%を外部プロダクションに制作委託することが義務づけられているが,これを順守する。
  • ニュースを除いた番組制作の50%について,局内制作を保証する。
  • 残りの25%の番組制作については,局内と外部の競争を導入し,質を高める。

商業活動の見直し

  • 商業部門の子会社は,必ずしもBBCが100%所有する必要はない。また,BBCの商業ビジネスは,BBCのコンテンツとBBCブランドを活用することに留まるべきである。
  • この原則に沿って,番組支援サービスにあたるBBC Broadcast(送出,編成,番組広報,字幕制作等)やBBC Resources(中継,スタジオ管理・賃貸,衣装等)は,完全売却やジョイントベンチャーの可能性を探る。
  • これら2社の従業員数は合計2,300人で,完全売却となれば,BBCグループから2,300人の人員削減となる。なお,放送技術・IT関連部門で従業員数1,400人のBBC Technologyは,2004年10月にジーメンス社への売却が決まっている。
  • BBC Worldwideは,本体の放送番組を二次利用したテレビチャンネル事業や番組関連雑誌の販売について,長期的に所有し続ける。
  • BBC Worldwideの書籍,学習やその他の事業は,事業規模に欠けるため,ジョイントベンチャーや売却を検討する。

急進的な改革によるBBCの生き残り

BBCが,子会社の売却を含めると5,200人に上る職員数の削減という構造改革を断行しようとしているのは,BBCの存続を左右する国内議論が展開されているからである。BBCの存立基盤である特許状が2006年末に満了するため,政府は,受信許可料制度やサービスの範囲,監督方法など,BBCの今後 10年のあり方について,国民の意見を吸収しつつ検討を進めている。この議論も2006年のゴールを目指して中間地点に入り,政府はBBCの将来に関するグリーンペーパー(たたき台)を2005年2月に発表すると見られている。

BBCのあり方の議論は,BBCが公共法人化した1927年以後,特許状更新のたびに繰り返し行われ,言わば慣習のようなものである。しかし,今回の見直しは,これまでと激変したメディア環境の中で行われている。1990年代末の放送のデジタル化によって,イギリスの人々の56%以上がデジタル多チャンネルテレビを利用するようになり,相対的にBBCのテレビサービスを利用しなくなっている。これによって,BBCの財源である受信許可料の支払いに疑問を持つ人々が増えてきている。また,ふんだんな受信許可料を含めた総収入(2003年度約7,400億円)で制作した番組をさまざまな媒体に再利用したり,新サービスに着手することに対し,民間産業界の反発はアナログ時代よりも強まっている。

改革への懸念

こうした中で,トンプソン会長は,急進的な変化を示さなければ特許状更新の議論を成功させることはできない,という強い信念でこの構造改革を推進しようとしている。この会長のメッセージは,BBCの将来に影響を与える政界やテレビ業界に効果的に浸透していると言われている。また,マンチェスターへの機能移転や外部プロダクション委託の増加は,外部の受けも良い。

しかし,大量の人員削減を伴う改革に対し,局内の反発は大きい。BBC職員が所属する業種別の3つの組合は,大量リストラに反対の姿勢を示し,BBC経営との交渉を行っている。また,イラク戦争報道で誤報を指摘され引責辞任したダイク前会長は,BBCのニュース番組に出演し,「組織の創造性は,職員のモラルの高さと熱意に基づいている」と述べ,トンプソン会長の改革がBBC職員の士気を低下させるのではないかと懸念を示すとともに,外部のBBC批判をかわすための行き過ぎた屈辱的な改革ではないか,とコメントした。BBCの将来ビジョンを描く途中で辞任を余儀なくされたダイク前会長のコメントだけに,重く受け止められるのではないだろうか。

中村 美子