国内放送事情

シリーズ デジタル多メディア時代を生き抜くために③

携帯端末向けマルチメディア放送の行方

~地デジ移行後の電波有効利用に向けて~

テレビのアナログ放送終了によって空く周波数帯域を活用して、携帯端末向けマルチメディア放送と呼ばれる新たなサービスが始まる予定になっている。しかし、放送開始に向けた準備が順調に進んでいるとは言えない。背景には、行政が主体となってビジネスモデルを示し、事業者の選定を行う従来の政策決定の枠組みがこのままでよいのかという問題が存在している。新たな放送サービスを取り巻く課題について、これまでの検討過程を整理しつつ考察を行った。

携帯端末向けマルチメディア放送は、携帯電話やカーナビといった端末にニュースや経済情報をリアルタイムで流したり、ドラマや映画などの大容量データを夜間などにまとめて配信(ダウンロード型配信)するもので、使用する周波数帯域によって、全国向け放送と地域向け放送の2種類に分かれる。サービス開始は 2012年4月が予定されている。

しかし、サービス展開に向けた準備は順調に進んでいるとは言えない。地域向け放送については、当初、放送エリアを東北や九州・沖縄といったブロック単位とする方針がまとまっていたが、「地域の実情に合うのか」、「採算が取れるのか」といった疑問が投げかけられ、2010年に入って再検討が行われる事態になった。全国向け放送についても、1枠のハード事業者への参入をめぐって、携帯電話事業者どうしの激しい争いとなり、事業者の決定は当初の見通しよりもずれ込んだ。背景には、多メディア化が進む中、行政当局が従来の手法で事業者を選定したり、ビジネスモデルを示すことが困難になっているという事情がある。

ただ、新たな放送サービスは、多額の国費を投入し、視聴者の協力を求めて行う地上デジタル放送移行後の周波数帯域を使って開始されるだけに、失敗は許されない。本稿では、問題の背景を探るため、携帯端末向けマルチメディア放送の枠組みが形成された過程を検証した上で、放送開始に向けてどのような課題が存在しているか、考察を行った。

メディア研究部(メディア動向)村上聖一