国内放送事情

シリーズ デジタル多メディア時代を生き抜くために①

完全デジタル化に向けて残された課題を探る

~地上波テレビ局に求められているもの~

2011年7月に予定されている地上波テレビ放送の完全デジタル化に向け、NHK放送文化研究所は今年1月に「日本人とメディアに関する世論調査」(以下、「日本人とメディア」調査)を実施し、視聴者側の準備や今後の対応などについて聞いた。この結果と、地上波民放各社へのアンケート調査の結果とを合わせ、完全デジタル化まで残り1年となる中で、地上波テレビ局に今後何が求められているのかを考察する。

地上波テレビ放送の完全デジタル化を進めていく中で、国が重要な指標のひとつとしているのが、地上デジタル(以下地デジ)対応のテレビやチューナーなど受信機の世帯普及率である(国の調査における最新のデータでは、今年3月時点で普及率が83.8%で国の計画で設定された目標値を初めて上回った)。これに関連して、「日本人とメディア」調査で地デジ対応受信機の有無を聞いた結果、受信機を所有している人の割合は64%で、所有していない人のうち41%が「アナログ放送終了時」の切り替えを考えていることが分かった。また、地デジ対応受信機を所有している人のうち、1割近くが地デジを視聴することができないと答えており、その理由は自宅アンテナ(49%)もしくは共同アンテナ(17%)の未対応によるものであった。このうち共同アンテナの改修をめぐっては、事業者アンケートでも地デジ普及の阻害要因として挙げる意見が多く(地上波テレビとアンテナ工事事業者の68%、地方自治体の60%)、これから完全地デジ化までの1年間でより重要な課題となることが予測される。

また、地デジが地上波テレビ業界に与える影響については、地デジへの対応で強いられる財政負担を理由にマイナス評価をした社が37%に達し、不況で経営環境が芳しくない中で一部の民放にとっては地デジが重荷となっていることが示された。そしてツイッターやVODなど新メディアへの対応も積極的意見は少なく(ツイッター15%、VOD10%)、こうした厳しい状況を反映した結果となっている。

メディア研究部(メディア動向)吉次  由美