国内放送事情

津波情報の国際協力と放送

~「スマトラ沖」以降の変貌~

2004年12月のスマトラ沖の地震・津波は死者・行方不明23万人以上という稀に見る大被害をもたらした。インド洋沿岸各国の津波監視・通報体制が整っていなかったことが被害を拡大した。

この反省から世界的な規模で津波監視の国際協力が進められ、国際間の津波情報の流れも大きく変わりつつある。

スマトラ沖以降、UNESCO/IOC(国連教育科学文化機関/政府間海洋学委員会)は、インド洋、北東大西洋・地中海、カリブ海の3地域で国際的な監視体制づくりを進めている。太平洋地域の体制は、チリ地震津波(1960年)以後整備されて来たが、「スマトラ沖」以降は、日本の気象庁が北西太平洋地域の地震・津波情報を沿岸各国に提供することになった。また、日米両国はインド洋の体制が整うまでの暫定措置として関係各国向けに津波監視情報の配信を始めた。 気象庁が海外に発信する情報のうち、NHKの国際放送は、津波発生の可能性が大きいマグニチュード7.6以上の地震が起きた場合に世界各国に速報している。マグニチュード7.9以上は、在外邦人向けテレビ放送の番組を中断してスタジオから伝える方針を決めた。 インド洋で構築中の通報体制は、複数の津波監視プロバイダーなどから成る。複数のプロバイダーが各国に情報を提供し、各国の防災機関はその情報を参考に自国に津波警報を出す。3つの監視センターが階層構造を持ち、地域の分担も決められている太平洋とは異なる「分散型ネットワーク」である。

スマトラ沖を契機に住民との接点である放送メディアでも国際協力が加速している。ABU(アジア太平洋放送連合)は、アジア太平洋地域での緊急警報放送システムの実現を盛り込んだ宣言を採択した。ABUの技術委員会にはそのためのプロジェクトがつくられ技術協力が進められている。

国際間の津波監視・通報体制が整備されてゆく中で、情報に基づいて住民が適切に行動出来たかどうか、情報の伝え方や住民の災害情報に対するリテラシーを検証してゆくことが今後の課題となる。

メディア研究部 福長 秀彦