国内放送事情

地デジ区域外再送信問題、決着に向けた方向性

~民放・ケーブルテレビの関係者は現状をどう分析しているか~

区域外再送信をめぐって民放とケーブルテレビが対立してきた問題は、総務省が2008年4月、新たなガイドラインを公表したことで転換点を迎えた。これを受けて、NHK放送文化研究所では、区域外再送信問題に詳しい双方の関係者を招いて議論を行い、この中で、ガイドラインが紛争解決に向けて一定の役割を果たすとした認識が示される一方、区域外再送信問題の抜本的な解決に向け、通信・放送制度の改革にあわせて今後も議論が行われる必要があるといった指摘がなされた。

総務省が公表したガイドラインは、民放・ケーブルテレビ間の再送信協議促進に向けて手続きを具体的に定めた部分と、紛争処理の際に用いられる大臣裁定の基準を変更した部分からなり、後者の裁定基準変更は22年ぶりとなる。これを受けて、▽民放側から毎日放送メディア戦略部専任部長の長井展光氏、▽ケーブルテレビ側から中海テレビ放送社長の秦野一憲氏を招き、ガイドラインの評価や今後の制度改革での区域外再送信の位置づけをめぐって議論を行った。

この中で、長井氏は、遠隔地での再送信について民放が拒否できるようにした裁定基準の変更に関して一定の評価をする反面、抜本的な見直しを求めてきた大臣裁定制度自体が維持されたことや、再送信先の民放の経営悪化が考慮されなかったことについては、要望が満たされなかったとする見解を示した。一方、秦野氏は、ガイドラインについて、地上波のデジタル化が進む中で視聴者に混乱を引き起こさないため、現状が維持されたものと評価したうえで、区域外再送信が情報格差の是正に果たす役割を強調し、民放とケーブルテレビの間でガイドラインのとらえ方に温度差があることが浮き彫りになった。

ただ、今後については、区域外再送信と地域免許制度との関係をどう整理するかといった問題が依然残ることから、通信・放送制度改革にあわせて引き続き議論していくことが必要という点で認識が一致した。

メディア研究部(メディア動向)村上聖一