国内放送事情

完全デジタル時代のコンテンツ戦略

~シンポジウムと事業者調査から~

4月9日開催のシンポジウム「完全デジタル時代・最善のコンテンツ戦略は?」では、地上波、BS、CSの事業者やプロダクションなど、映像事業を展開するプレイヤーが壇上に登った。4業界への調査に基づき、まず2011年時点での各メディアの普及状況や国民の利用動向をどう想定しているのかを確認した。続いてタイムシフト(いつでも)やプレイスシフト(どこでも)が進む中で、コンテンツ戦略がどこに向かうのかを展望した。

地上デジタルが開始して4年、そしてアナログ停波まで残り4年。今回は放送デジタル化の折り返し地点で、“完全デジタル時代”の状況とコンテンツの提供のされ方を議論すると共に、その際の課題を浮かび上がらせた。まず明らかになったのは、デジタル化の進捗に合わせ、BS、CSなどの有料放送、ワンセグ、VOD、デジタル録画機によるタイムシフト視聴などが普及するという点である。その結果、これまで圧倒的だった地上波の位置付けは今より後退する。その結果、従来の地上波の固定テレビによる視聴率のみを測定しているだけでは十分でなくなり、多チャンネルや「いつでも、どこでも」となる多様な視聴形態に対応しなければならない。これは単に視聴率測定が変化するだけでなく、各事業者のコンテンツ戦略も変更を余儀なくされることを意味する。

米国の放送事業者は番組のネット配信に積極的になっているが、日本の多くの事業者もその意味合いは理解し始めている。しかし現実には、これまでの商習慣など問題があり、一筋縄では次のステージに展開できない。完全デジタル時代での、最善のコンテンツ戦略は何か。それは状況の変化を正しく読み、商習慣を必要に応じて変え、経営資源の投入で選択と集中を進める。つまり判断力と実行力にかかると言っても過言ではなさそうだ。

沈 成恩 /主任研究員 鈴木祐司