国内放送事情

「GDP神話」を超えて

~「豊かさ」を伝えるための新たなアプローチ~

「GDP」(Gross Domestic Product=国内総生産)、その伸び率である「経済成長」は、家計の消費、企業の生産活動・設備投資、そこから波及する所得・雇用の拡大、景気拡大といった国民の「豊かさ」に関わる総合的な経済指標として毎回その発表が注目され、マス・メディアが大きな紙面や時間を割いて伝えるニュースとなる。「GDP・経済成長は『経済の豊かさ』を評価するための重要な指標」とする捉え方は、広く一般に浸透していると言えよう。

だが「GDPの拡大・力強い経済成長」などをもって「良いこと」「期待されること」「豊かさが拡大すること」などという捉え方は一面的であり多くの問題を見過ごすことにもなりかねないとする指摘がある。特に「豊かさ」の分析・評価を専門とする経済研究者たちは、経済社会の豊かさに関して、GDPで捉えられていない諸要素が多く存在すること、成長をもたらす経済活動の結果が生活者にとっての豊かさを高めず、むしろ奪うものでもGDPでは「プラス」に評価されてしまう場合があることなどを明らかにしている。そして、GDPではなく「生活者」の視点で豊かさを評価し直し広く一般に示してゆこうとする新指標が経済研究者らによって試みられており、マス・メディアはこうした試みを参考に「豊かさ」について取材を深めることを通じて、GDP・経済成長・豊かさに関する報道に広がりや厚みを加えたものとし、視聴者・読者への貢献を高めることが可能である。―本稿はこれらについて明らかにするものである。

尚、本稿の中では、アメリカにおいて開発されて、今、日本でも自治体や経済研究者に注目され、試算も始まった新たな「豊かさ指標」を紹介しつつ、そうした指標が示す考え方を取り込むことによって「豊かさ」に関する捉え方がいかに変わりうるかについても具体的示す。

主任研究員 小宮山康朗