国内放送事情

デジタル時代の新サービスはどのように利用されているのか

「先端的メディア環境」導入者の事例研究から

放送のデジタル化や「放送と通信の融合」等の進展によって展開される新しいメディア機器やサービスは,人々にどのように利用され,それによってこれまでの情報行動はどのような変化するのか。NHK放送文化研究所では,メディア利用や情報行動の変化に関する総合調査の実施を念頭に置きつつ,その準備作業として事例研究を実施した。同調査では,現時点で「先端的」と思われる①多チャンネルサービス ②データ放送 ③ハイビジョン ④HDDレコーダー,⑤ビデオ・オン・デマンド(VOD) ⑥インターネット高速接続(ブロードバンド)の各種メディア/サービスについて,30代のユーザー39人を対象に,各種メディア/サービスの選択理由・利用実態等を,日記式調査,アンケート調査,ヒアリングによって詳細に調べた。

その結果,テレビとパソコンのいわゆる2スクリーン状況,多チャンネルサービス利用者におけるチャンネルの使い分け,データ放送の利用実態,またHDDレコーダーの利用者における「タイムシフト視聴」等,人々が様々な状況の中で,多様なメディアを多様に使い分けながら自らの情報空間を形成している実態が具体的コンテクストに即した形で浮かび上がった。

今回の事例研究で注目した「先端的」なメディア機器/サービスの普及率は10~40%程度であるが,ブロードバンドサービスやHDDレコーダー,VODサービス等は今後ますます普及が拡大していくことが予想される。情報行動の多様な分化と,それによってもたらされる情報空間の多元化の中で,従来型の「地上波」放送がどのような役割・機能を果たし得るか,個々人が入手する情報の量・質にどのような変化が生じ得るか,情報格差のような問題は発生しないか,また公共サービスとしての放送が今後提供していくべき情報及び情報環境とはどのようなものか,などの問題について,より大規模な統計的調査によって検証する必要があるだろう。

「日本人とメディア」総合調査研究プロジェクト