国内放送事情

二つの地域情報化

~富山県八尾町と山田村~

富山県の八尾町と山田村、山一つ隔てて隣り合うこの2つの自治体は、およそ10年前、ちょうどマルチメディアやインターネットが喧伝され始めた頃、全国に先駆けて地域情報化をスタートさせた。マスコミにも紹介され情報化による地域活性化として全国から注目を集めたが、その方向は対照的で全く異なっていた。

山田村が希望する全世帯にパソコンを配布しインターネット講習を進めたのに対し、八尾町は全世帯にケーブルを敷設、地域情報番組を含めた多チャンネルテレビを見れるようにすると同時にインターネット接続を可能にした。山田が車を各家に無料配布したのに対し、八尾はブロードバンドの高速道路を各家の軒先までつないだと比喩的にいわれる。

山田は村外との連携・支援も得て、興味と関心がある高齢者でもパソコン―車の運転免許を取り、自在に乗り回し、生活圏や視野を広げ、新しい生活に入っていった。そして04年4月からはFTTHを導入、光ファイバーによるブロードバンドでインターネットとテレビの両方のサービスを始めた。

八尾の場合は町の人々総出演の地域番組で連帯感を深め、また個人でパソコン―車を購入・利用し、情報を送りあうことによって生活や観光・商売に利用し、あるいは産業を興し、外から人を呼び込んだ。現在、両町村は多チャンネル、インターネット利用率ともほぼ同じで全国平均並みであり、高齢者率の高いことを考えるとまだ先進的といえる。

その後の技術の進歩・普及は結局両者を同じ方向、ブロードバンド化と、放送と通信の融合へと収斂させた。全く違う道を選んだが、地域情報化で目指す山頂は同じだったことになる。しかも世の中の動きは早く、八尾・山田の先進性も薄れつつある。

八尾町と山田村は4月1日新富山市に事実上吸収合併されるが、情報化は両地域に、簡単には新市に呑み込まれず、周縁化されないような活力をもたらしたように見える。

2つの相異なる典型的な地域情報化の軌跡をたどるとともに、これまでの取材、調査、アンケートのデータからその成果を分析、今後を展望したものである。

放送研究 主任研究員 平塚千尋