番組研究

制作者研究<テレビの“青春時代”を駆け抜ける>

第4回 萩野靖乃(NHK)

~泣いて笑って、社会の深層(リアル)を撮る~

萩野靖乃(1937-2012)はNHK離れしたポップな感覚で伝説の若者むけ番組となった『YOU』 のプロデューサーとして知られるが、ディレクター時代は「ど迫力」の剛腕ドキュメンタリストとして勇名を馳せた。『NHK特集 密航』(1980)では誰も撮れないといわれた法務省大村入国者収容所(長崎)に潜入、韓国からの密入国の実態を赤裸々に描き出し、『ドキュメンタリー 救急指定 私立S病院』(1975、芸術祭優秀賞)では大阪の病院を舞台に逼迫する医療現場の実態をえぐり出した。現役最後の番組『ルポルタージュにっぽん 倒産 影の紳士たち』(1981)でも倒産の裏側で暗躍する暴力団の組長に直撃取材するなど、いつも圧倒的なスクープと「ここまで撮るのか」という驚異的な場面が映しこまれている萩野の番組には、反面ときに腹をかかえて笑い、ときに思わず「涙腺」が緩む「人情」が同居している。自らリポーターとなって画面に顔を晒す「大胆さ」を見せながらも、「繊細に」ディテールをとらえ、ビビッドに社会の深層をえぐり出すことにこだわった萩野の制作者としての信条はどうして生まれ、どのように展開したのか。番組と著作、インタビュー記録などから、かつて萩野を上司とした七沢潔が「解読」する。

メディア研究部  七沢 潔