番組研究

論文紹介:NHKアーカイブス学術利用トライアル研究から

堀江秀史 著
「寺山修司のテレビメディア認識 ~NHKアーカイブス発掘資料『一匹』(1963)を中心に~

「NHKアーカイブスの学術利用に向けたトライアル研究」(以下、トライアル研究)の成果を紹介するコラムの第2回。今回紹介する論文は、1984年に放送された「NHK特集:幻のイオマンテ~75年目の森と湖のまつり~」およびその続編的な2本の番組を分析対象としたものである。この論文は、アイヌの人々の伝統的な儀式を取材した番組を分析しながら、日本の近代史のなかで進められたアイヌに対する同化政策や、それがアイヌの文化にもたらしたことの意味について考察している。アイヌに関連する研究は、歴史学、民俗学、言語学、社会学など多様な領域で蓄積されているが、論文の著者によると、放送番組を素材とした分析を行った研究は例がない。その意味で本論文は、過去に放送された番組の映像が、文化や風俗を記録した貴重な歴史資料としての価値を持つ可能性を示している。と同時に、放送番組自体が、各時代の価値観や政治社会的な力学を内包した「構築物」である以上、研究素材として扱う場合には、その方法論上の試行錯誤も必要となるであろう。

メディア研究部  原 由美子