最近気になる放送用語

「9時10分前」?

「9時10分前」のような言い方は、放送では使ってはいけないのでしょうか。

時刻を客観的・時系列的に伝えるような場面では、原則として「8時50分」というような言い方をすることになっています。ただし、たとえば「(キックオフの)9時まであと10分」というような意味で自分の主観・期待を込めたいときには、このような言い方をするのも選択肢の一つだと思います。

解説

「○時△分前」という言い方を放送では使わないという記述が、確認できる範囲内で1954(昭和29)年の気象用語の取り決めの中にすでに見られます。使わないという理由の一つに、誤解の恐れがあるからだということが挙げられます。

「9時10分前」は、大半の人は『8時50分』のことだと考えます。ところが、これ以外に『9時10分より少し前』(たとえば9時9分ごろ)という意味もありうるととらえる人が、少なからずいるのです。「9時前」というのが9時になる数分前のことを指すように、「9時10分前」も9時10分になる手前の時刻・時間帯を表すという考えによるものです。

この「9時10分前」をどう解釈するかについて、インターネットを使ってアンケートをしてみました。すると、「どのような場合でも『8時50分』のことだ(『9時9分ごろ』という解釈はおかしい)」という答えが過半数を占めました。いっぽうで、『9時9分ごろ』という解釈も認める回答(「文脈やイントネーションによってどちらの意味にもなるが、本来は『8時50分』という解釈が正しい」)は、特に若い年代を中心として決して少なくはありませんでした。また地域別には、四国ではこの回答が比較的多くなっています。

ただし「△分前」や「△秒前」という言い方には、その時刻になるのが待ち遠しいという一種の期待感や、「もうすぐその時刻になる!」という緊迫感を表す効果もあります(例「恋が始まる予感 あなたも感じるでしょ MajiでKaiたラブレター 渡すその5秒前」(作詞作曲:竹内まりや/歌:広末涼子「MajiでKoiする5秒前」)。このニュアンスを積極的に表現したいときには、「○時△分前」という言い方も有効でしょう。

「9時10分前」は、『8時50分』?『9時9分ごろ』?(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2010年12月~2011年1月実施、512人回答)

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)