最近気になる放送用語

と会う? に会う?

「私は彼と会う」と「私は彼に会う」とでは、どう違うのでしょうか。

放送でのコメントとしては、使い分けをそれほど強く意識する必要はないかもしれません。しかしことば本来の意味の違いとしては、非常に微妙ですが、「私」と「彼」の両方が移動して会うのか、あるいは「私」のほうから「彼」のところに会いに行くのか、というニュアンスの差があるようです。

解説

まず、助詞の「と」について考えてみましょう。「私は彼と勉強をする」と言った場合、「私」も勉強をするし、「彼」も勉強をしますよね。つまり「と」には、

「互いに~する」

という意味があることがわかります。

次に「に」についてです。「私は彼に告白をする」と言った場合、「告白」をするのは私からであって、彼が告白をしたり、あるいはお互いに告白をしあったりはしません。つまり「に」には、

「一方から他方に~する」

という意味があることがわかります。

さて、ご質問の「会う」について考えてみましょう。「私は彼と会う」と言った場合には、両方が移動して行って会うに至る、ということになります。待ち合わせ場所を決めて会う場合などが、代表的な例です。

いっぽう「私は彼に会う」は、「私」のほうから「彼」のほうに会いに行くのであって、「彼」は別に移動しなくてもかまいません。相手のところに訪ねて行く場合によく使われます。

似たようなことは、「ぶつかる」でも言えます。「車が壁にぶつかる」という言い方は問題ありませんが、「車が壁とぶつかる」はややぎこちない表現となります。これは、「壁」は動くはずのないものだからです。

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)