ことばの研究

調査研究ノート

「緊急の措置をとる必要があると言っています」再考

~言語学から見るNHKアナウンサーのイントネーション論~

「緊急の措置をとる必要があると言っています」は、NHKアナウンサーのトレーニング用に30年ほど前から使われている例文である。この文を原点として展開してきたアナウンサーによるイントネーション論を、言語学の概念を用いて整理、解説する。

この例文は、1975年、外部識者が、当時のNHKアナウンサーのイントネーションの不自然さを指摘した新聞記事の中で用いた文である。この指摘をきっかけに、「意味通りのイントネーション」という議論が進められ、この例文を意味通りに読むトレーニングを基本に、いくつかの方法論が生まれてきた。しかし、この考え方はまだ、アナウンサー全体や教育関係者などに十分に理解されているとまでは言えない。その理由として、この方法論に関する従来の説明が、どんな文でもセンテンスの頭を高くして一本調子に読み下していくという誤解を招く余地や、実際の放送や朗読などにどう応用するかがわかりにくい面があったことがあげられる。そこで、音声学の立場から、文の途中で音が「上がる」または「下がる」メカニズムを解説することに加え、統語論の立場から、ことばが「かかる」「かからない」といった文の構造の考え方を整理し、さらに語用論の立場から、コンテクストから独立した「文そのものの意味」と、コンテクストに依存する「語用論的意味」の違いを整理する。こうした要素の整理にもとづき、杉澤陽太郎の「意味句読みと文節読み」、長谷川勝彦の「ジャーナリズムの音声」など、アナウンサーによって展開されてきた議論の主要部分を解説する。

メディア研究部(放送用語) 杉原満