放送現場の疑問・視聴者の疑問

「白夜」の読み方は?

北欧など北極や南極の周辺の地域で見られる「白夜」は、[ビャクヤ]と読むと思い込んでいましたが、「正しい読み方は[ハクヤ]である」と週刊誌のコラムに書いてありました。放送では、どのように読んでいるのでしょうか。

[ビャクヤ]と読み、場合により[ハクヤ]と読んでもよいことにしています。

解説

たしかに、「白夜」の本来の読み方は[ハクヤ]です。ことばの中には、本来の伝統的な読みがありながら時代とともに違う読み方が定着し、ことばとしての市民権を新たに得るものもたくさんあります。「白夜」も、その典型的な例の一つです。本来の読み方であった[ハクヤ]より、今では新しい読み方の[ビャクヤ]が断然優勢になりました。

「白」を[ビャク]と読むのは呉音(中国・六朝時代の呉地方の発音といわれる)、[ハク]と読むのは漢音(呉音より新しく中国の随・唐以後、長安地方の発音といわれる)です。「白蓮(びゃくれん)」「黒白(こくびゃく)」「白衣観音(びゃくえかんのん)」のように古い時代のことばや仏教用語は[ビャク]ですが、「白夜」は、「白昼(はくちゅう)」「白状(はくじょう)」のように比較的新しい時代にできたことばで、本来の読み方は[ハクヤ]でした。

それでは、なぜ古くもなく仏教用語でもない「白夜」が[ビャクヤ]と読まれるようになったのでしょうか。昭和40年代に登場した森繁久弥さんの「知床旅情」で「♪はるか国後(クナシリ)に 白夜[ビャクヤ]は明ける♪・・・」と歌われたことが、[ビャクヤ]が広まる一つの引き金になったとみる人が多いようです。NHKが、昭和55年(1980年)に行った有識者アンケートでは、「白夜」の読みについて実に9割以上の人が[ビャクヤ]と回答していました。それまで放送では[ハクヤ]の読み方だけしか認めていませんでしたが、[ビャクヤ]も認めることになったのです。今では、[ビャクヤ]と読み、場合により[ハクヤ]と読んでもよいことにしています。

(NHK日本語発音アクセント辞典P774、ことばのハンドブックP157参照)

「菩提樹の 並木あかるき白夜かな」(久保田 万太郎)

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)