放送現場の疑問・視聴者の疑問

「今 現在」、「掛け声を掛ける」などの重複は許される?

「今 現在」「掛け声を掛ける」といった表現が放送でも使われることがありますが、意味が重複していておかしいのではないでしょうか。

同じ意味のことばを重ねる「重複表現」が、一般に好ましくないとされているのは事実ですが、放送では「わかりやすい」という利点があれば重複表現がすべてよくないということにはなりません。

解説

重複表現の典型的な例として、「山の中の山中で、昔の武士の侍が、馬から落ちて落馬して・・・」があります。このように重複表現であることが明らかで、目ざわり・耳ざわりな場合は避けたほうがよいでしょう。一般的に重複表現は好ましくないとされており、書きことばでは特にそうです。しかし、放送では聞く側にとって「それほど気にならず、そのほうが意味がわかりやすい」という利点があれば、重複表現はすべてよくないということにはなりません。ご質問の例の「今 現在」は、普通は「今」か「現在」かのどちらか一方を言えばよいでしょうが、話しことばでは「あること」をとりたてて強調したいときに、同じ意味のことばを重ねて用いることはよくあることです。

「掛け声を掛ける」「歌を歌う」「○○賞を受賞する」といった言い方も重複表現にあたるでしょうが、これらの言い方が気になるという人はあまり多くはいないでしょう。一方、「日本に来日する」「色が変色する」「炎天下のもと」などは、一般に抵抗を感じる人が多いようです。放送で重複表現を使うときには、「一般的には重複表現は好ましくない」ということをよく認識したうえで、それが視聴者にとってわかりやすくなっているか、耳障りにならないか、十分配慮することが必要です。

(NHKことばのハンドブックP339参照)

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)