「日本賞」コンクールにみる世界の"教育とメディア"の変容

公開:2018年1月30日

「日本賞」は,世界の教育番組の質の向上と国際的な理解・協力の増進に役立つことを目的として,1965年にNHKが創設し今日まで続く,世界唯一の教育番組・コンテンツに特化した国際コンクールである。50年を超える歴史を重ね,時代の変容の中で,放送を中心とするメディアが教育の分野で社会に貢献できることを広く世界に示してきた。

1970年代末までの「日本賞」初期の時代には,放送というメディアに大きな期待を寄せた世界各地域の国々が,国の基礎となる教育の充実に向け,それぞれの実情に応じて,ラジオ・テレビ教育番組の制作と普及を目指した。コンクール参加番組は,科学・数学・語学等の学校教育充実のための教科番組や,成人対象の識字・語学・職業教育等,基礎教育向けの番組が中核を占めていた。

続く1980-1990年代は,社会の変化とメディアの変化(テクノロジーの進歩)が教育番組を多様化させた時代であった。環境,異文化理解,戦争と平和,薬物,エイズ,いじめや差別,子どもの心をめぐる問題,親子・家族の問題,教師と生徒の関係,高齢化社会等,社会が直面する今日的課題を取り上げる教育番組が増加し,最新鋭の映像技術を効果的に用いたわかりやすい説明,身近な事例やクイズ形式,親しみある登場人物の起用等,演出面の工夫が進んだこともこの時期の特徴である。

2000年以降は,メディアの多様化が顕著になる中で「日本賞」の対象が放送番組以外にも拡大され,ウェブサイトや教育ゲームをはじめ,双方向メディアの特性を生かした様々なコンテンツが登場し,教育・学習の形態が多様になる状況が実感されることとなった。ただし,参加作品全体を俯瞰すると,現在でもテレビ番組は中心的な位置を占めており,異なるものへの正しい認識・理解や人間の根源に迫るテーマをじっくり考えさせる番組が高く評価されていることは,重要である。

「日本賞」に集まる人びとのバックグラウンドも多彩な時代にあって,異なる立場と経験を交流させることで互いに高め合うだけでなく,さらに変化が予測される“教育とメディア”の動向を見据えつつ,世界全体の教育の向上や国際理解の促進に向けて,国を越えた連携プロジェクト等が,「日本賞」を起点に進展していくことも期待される。

メディア研究部/小平さち子

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