「えさをやる」?「えさをあげる」?

公開:2024年4月1日

Q
動物に「えさをやる」という表現は、動物をぞんざいに扱っている感じがして抵抗があります。
「えさをあげる」でもよいでしょうか。
A
伝統的には「えさをやる」です。「えさをあげる」と言う人も増えていますが、違和感をもたれることもあります。「やる」という表現が気になる場合は、「えさを与える」もよいでしょう。
<解説>

「動物にえさを~」という表現については、伝統的には「動物にえさをやる」ですが、「やる」という表現はぞんざいな印象を与えることがあり、使いたくないと思う人もいるようです。

「やる」を辞書でひくと「ぞんざいな語感を与えるようになり、丁寧な言い方である「上げる」にとってかわられる傾向にある。」(『明鏡国語辞典3版』)とも書かれています。

そんな中、「えさをあげる」という表現も増えています。

しかし、「えさをあげる」という表現にも、違和感をもたれることがあります。

私自身、新人アナウンサー時代に、鹿児島からの中継で「今からカンパチにえさをあげます!」と発言したところ、「えさをやるにしなさい」と注意された経験があります。

なぜ「えさをあげる」が問題とされることがあるのでしょうか。
「あげる」は、敬語の分類でいうと、本来「謙譲語」にあたると言われてきました。
「謙譲語」は、敬意が必要な相手に対して使うことばで、動作をする人(多くの場合は自分)を下げて、動作を受ける相手を上げる表現です。
最近は、「やる」のていねいな表現として「あげる」を使う人もいますが、本来「あげる」は謙譲語として使われていたため、動物やペットに対して、謙譲語を使うのはおかしいと感じる人がいます。「えさを差し上げる」に近いニュアンスに聞こえてしまうのです。

年齢や性別によっても、抵抗感が違います。

以下、文研で行った調査です。

「ペットの犬にえさを『あげる』」という表現についてたずねました。

(2019年3月 「日本語のゆれに関する調査」)
  • 調査時期 2019年3月8日~17日
  • 調査方法 調査員による個別面接聴取法
  • 抽出方法 層化副次(三段)無作為抽出法
  • 調査対象 全国満20歳以上の男女4000人
  • 回収率  29.8%(1192人が回答)

全体の74%の人が「おかしいと思わないし、自分でも使う」と回答しています。
ただ、年齢別のデータを見ると、20~50代は8割~9割が「おかしいと思わないし、自分でも使う」と答えているのに対して、60代以上は「おかしいと思わないし、自分でも使う」と答えた人は6割を下回っており、反対に2割近くの人が「おかしいと思うし、自分でも使わない」としています。年代が上がるにつれ、ペットに対して「あげる」を使うことへの抵抗感をもつ人も一定数いることがわかります。

動物との交流をえがくようなシーンで、あえて親しみを込めて「えさをあげる」という表現をすることも間違いとは言い切れませんが、高年層を中心に違和感をもつ人もいることを理解した上で、慎重に使用したほうがよいでしょう。

「えさをやる」か「えさをあげる」かは、なかなか私たちの頭を悩ませる難しい問題のひとつです。
現時点では、放送では、伝統的な「えさをやる」が多く使われていますが、今後の動向を見守りたいと思います。「やる」という表現が気になる場合は、「えさを与える」という表現がおすすめです。

さて、きょうも、我が家で悠々と泳いでいる金魚様にえさを差し上げ・・いや、えさを与えないと。

メディア研究部・用語 藤井まどか

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