第1460回放送用語委員会(仙台)2022年7月22日

長文は短く

~ニュースをもっとわかりやすくするために~

公開:2022年12月1日

第1460回放送用語委員会が7月22日に仙台放送局で開かれた。

外部委員として,日本大学文理学部教授の野田尚史氏が出席した。また当日は欠席となったが,脚本家の井上由美子氏にも事前に意見を聞いた。

仙台・秋田・山形・盛岡・福島の5局が参加した。当日の議論を整理して報告する。

ニュースを,やさしいことばで伝える努力

「新型コロナウイルス」のニュース。委員から全体的にかたすぎて,視聴者に伝わりにくいのではないかという意見が出た。

きょうの県内の新規感染確認は270人で,先週の木曜日より22人多くなりました。

「新規感染確認」と漢語が続く。委員からは「感染者は270人」と簡潔にできないかという意見が出た。これに対し,制作担当者からは,前日までの感染者のうち保健所が把握している数なので「感染者」とは言いかえられず,事実を正確に伝えるために「感染確認」という言い回しになったという経緯が説明された。これをふまえて,改善案を話し合った。

(言いかえ案)
→きょう,県内で新たに270人の感染が発表され…

 「新たに」「発表」を使うことで理解しやすくなる。

長すぎるリードは,短くする

映画を10分程度にまとめた違法な動画,ファスト映画を公開したとして,宮城県警察本部が全国で初めて摘発し,有罪が確定した3人に対し,大手映画会社など13社が著作権を侵害されたとして総額5億円の損害賠償を求める訴えを起こしました。

「リード部分が長すぎてわかりにくい」と指摘があり,野田委員から文法的な解説が行われた。

「全国で初めて(3人)摘発し」「(3人)有罪が確定した」という2つの要素を,無理やりつなげて「全国で初めて摘発し,有罪が確定した3人」としている。前者は「3人」の関係でつながるのに対し,後者は「3人」の関係でつながる。「3人」との関係が「を」「の」とずれているので,聞き手は混乱しやすい。

また「13社が~訴えを起こしました」の部分は,助詞「が」より「は」を使ったほうがよい。「は」は,文全体の話題を示す性質を持つため,文章の後ろまで意識を保たせることができる。「が」は,直後にかかる性質があるため「13社が著作権を侵害された」で終わるかと無意識に想定してしまい,混乱を招く。

一文を長くすると,こうした文法的な問題が生じやすいため,長文は短くして分けるのが得策だ。

ファスト映画の「違法性」を強調するには

3人が公開した『シン・ゴジラ』など国内の54作品について再生回数を調べたところ…

違法にネットに投稿されるファスト映画。委員からは「そもそも映画を10分程度にまとめるのは悪いことだというのがわかりにくい」という意見が出た。このため,用語の面からよりよい表現はないかを探った。まず「映画の公開」だと,一般的な映画の公開を連想してしまうため,ネットに「投稿」や「掲載」がよい。また違法動画を「作品」と呼ぶのは違和感があり「動画」がよい。違法性を強調するため「違法に」ということばを入れるのもよいだろう。

(言いかえ案)
→3人が違法にネットに投稿した『シン・ゴジラ』など国内の54動画について…

「犠牲」という表現について

東日本大震災で犠牲になった○○さん。

障害がある人の避難の難しさを訴える30分番組。番組冒頭は,このナレーションで始まった。

「死亡」「行方不明」を,えん曲的に「犠牲」と表現すると,哀悼の意を表せる。しかし「犠牲」は「いけにえになる」という意味を含むため「自分の家族はささげられたわけではない」と不快感を覚える人もいる。今回は,遺族に寄り添うドキュメンタリーであり,遺影の映像とともに遺族である母親が登場するシーンなので「犠牲」は適切だっただろう。

ひとを「亡くす」というか

AさんはBさんを必死に抱きかかえたものの,気管から水が入り,目の前で亡くしました

委員から「“なくす”は“物をなくす”の意味で使われることが多く,耳で聞いて理解しにくい」。また「主語が『Aさん』から『水』に変わり,また『Aさん』に戻るため,わかりにくい」という意見が出た。これに対し,コメント制作の際に「気管から水が入り」をあとから入れたため,文章がおかしくなってしまったという制作事情が説明された。

(言いかえ案)
Bさんは,気管から水が入り,Aさんの目の前で亡くなりました。

アイデアは「深まる」のか

復活に向けてのアイデアも深めることができたと言います。

「アイデア」は「良い結果を生み出す,思いつき」(『明鏡国語辞典』第二版)で深まるものではない。

(言いかえ案)
→たくさんのアイデアが出た
アイデアを膨らませることができた。

取材に「応じました」はえらそうか

今回,県内に住む被害者の1人がNHKの取材に応じました

キャスターのスタジオコメント。国際ロマンス詐欺の被害者男性への取材のため,被害者男性に対して“応じました”は,上から目線に聞こえるという意見が複数の出席者から出た。「話しことばとしては“答えてくれました”が自然だし,えらそうでない」という発言も出た。一方で,ニュースの現場からは「定型表現になっていて深く考えていなかった」という発言もあった。定型表現について,議論は膨らんだ。NHKは「ここからは○○記者とお伝えします」「見つめました」「記録です」などを多用しやすいが,本当に適切な表現か,精査する必要がある。

コメントの主語を一貫させる

そんな中,おととし2月,1人の外国人女性と連絡を取り始めました。
名前はバーバラ。両親はドイツ人と日本人で,看護師の資格を持つと自己紹介しました

同じく国際ロマンス詐欺のリポート。制作者は「どうしてそんな手口に引っかかってしまったの,と誰もが感じる。しかし,被害は絶えない。詐欺への啓発として,視聴者が自分のこととして受け止められるよう『被害男性』の目線でコメントを書いていった」。

緻密な取材に基づいた,的確で臨場感あるコメントが続いたが,この部分だけ,主語が,被害男性から,詐欺の仕掛け人であるバーバラにすり替わっている。「自己紹介してきました」とすると,より被害男性に寄り添って見てもらえるだろう。

「○○していただければ」に注意

(出会い系のSNSについて)自分が今つながっている相手が安全なのかどうか,それを見極めながら利用していただければと思います

取材記者のスタジオコメント。丁寧に話そうとすると,つい「○○していただければ」と発言しがちだが,NHKは,このSNSの会社ではないので「利用していただければ」はおかしい。謙譲語の誤用にあたる。SNSを推奨しているようにも聞こえかねない。

(言いかえ案)
→見極めながら利用するのがよいと思います

藤井まどか(ふじい まどか)

※NHKサイトを離れます

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