〇〇感

公開:2022年11月1日

信じられないほど暑い日が続いたある日。ふと目にしたネット上のつぶやきに,気になることばを見つけた。

「セミ感がある」

「セミ感」って,昆虫のセミみたいにジージーうるさいってこと?それとも「セミロング」「セミファイナル」のような「半ば」や「準」の意味の「セミ」のこと?あわてて前後の文を読むと,どうやら「セミ」は昆虫の「セミ」。ただ,うるさい感じの「セミ感」ではなく,時間をかけて準備をしたのに,日の目を見たのは短い期間だったという,いわばはかない感じの「セミ感」だった。なかなかユニークなことばのセンスだが,「〇〇感」のように「感」がつくことばは,驚くほど数が増えているように思う。

「〇〇感」は,「〇〇な感じ」「〇〇がある感じ」という意味で使われる。「孤独感」「幸福感」「臨場感」など「感」がつくことばはもともと多いが,最近では,「彼氏感のある俳優」「スイーツ感があっておいしい」といった使われ方も目にする。また,ものの様子を表すことばなどにもくっつき,「ざらざら感」「すっきり感」「ひっそり感」のようにも使われる。

これほど「〇〇感」がもてはやされる理由は何だろうか。まず,考えられるのが,文字数の少なさだ。「彼氏っぽい感じがする」とするより,「彼氏感がある」とするほうが短く表現でき,ネットでつぶやいたり,スマホでメッセージを送ったりするときに使い勝手がいい。

また,「感」をつけることで生じる「直接的でない感じ」も使いやすいのだろう。少しオフィシャルな,職場の会話などでも「〇〇感」は増殖中だ。

「皆さんの夏休みのスケジュール感を教えてください」

「予算感は,だいたいどれくらいを考えていますか」

それぞれ「スケジュールを教えてほしい」「予算はどれくらいか」という表現に比べると,「感」をつけることで少しあいまいな感じになり,聞きにくいことも聞きやすくなる。これは,相手との関係をなるべく良好に保とうとする,現代社会における一種の配慮表現なのだろうか?

「感」について考え出すと止まらない。「納得感がほしい」と「納得したい」はそもそも意味が違うのか。秋の夜は長い。「栗感」たっぷりの栗ごはんでも食べつつ,もう少し考えてみよう。

メディア研究部・放送用語 中島沙織

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