メタバース?メタヴァース?

公開:2022年4月1日

Q
いま流行の「メタバース」。「メタヴァース」と書くのは間違いですか?
A
「メタバース」がおすすめです。ただし、会社名などの固有名詞が「メタヴァース」となっている場合は、そのまま使うこともできます。

(説明)

Vの音をカタカナでどう書くか、という質問がよく来ます。メタバースについても今後来ると思われます。そこで、メタバースを例にVのカタカナ表記について整理してみます。

メタバース(metaverse)とは、meta(超)と、universe(宇宙)を合わせた造語です。インターネット上の仮想空間で、自分の分身のアバターを通じて行動し、他の人とのコミュニケーションができるサービスのことです。昨年の秋くらいから、科学技術やビジネスで今後最も注目されるものの一つとしてTV、新聞、雑誌、本などに多く登場するようになりました。アメリカのIT大手のフェイスブック社が社名をメタと変えたことも、メタバースを大きなビジネスチャンスと考えてのことで、話題になりました。

インターネット上では「メタバース」も「メタヴァース」も出てきます。ただし、NHKは「メタバース」を採用しています。その理由は、「発音と表記は一致させる」という原則があるからです。

英語でVの音を発音するときは、「上の前歯を下唇に当てて発音」と指導されます。この音は「ヴ」と書き、ウ濁と呼ばれますが、日本語ではあまり使われない発音です。「メタヴァース」と書くと、放送でアナウンサーが「上の前歯を下唇に当てて発音」することになり、聞き慣れない音になってしまいます。このため実際は「バ・ビ・ブ・ベ・ボ」と発音し、カタカナでも「バ・ビ・ブ・ベ・ボ」と書くわけです。これが、「発音と表記の一致」です。

このVの入った外来語の表記については、『NHKことばのハンドブック第2版(第19刷)』P223に次のようにあります。

4.(ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォ)(バ・ビ・ブ・ベ・ボ)

母音[va・vi・v(u)・ve・vo]は次のように扱う。

(1)原音に近く書き表す場合は
「ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォ」
と書く。
(2)一般的には
「バ・ビ・ブ・ベ・ボ」
と書く。
〈例〉ヴィヴァルディVivaldi(人) 〈例〉ベルサイユ宮殿 Versailles(地),
ドライブ drive

※以下省略

メタバースは一般名詞なので、(2)に該当します。また同様に、AvatarもVが入っていますが、アヴァターよりアバターがおすすめです。

メタバースを語るときによく例として出されるのが、スティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレーヤー1』(2018年)です。映画では、人々が大きなヘッドセットを頭にかぶり、手には線のついたデバイスをつけて、広大なバーチャル空間でアバターを動かしています。そこにも、生活と労働と娯楽と戦いがあり・・と書いたところで、監督の名前(Steven Spielberg)にも、デバイス(device)にも、バーチャル(virtual)にもVがあることに気づきました。みんな「バ」ですね。

なお、ハンドブックの(1)のように、ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォを使う場合もあります。特に人名や固有名詞の場合などです。

最近の例では、朝ドラの「カムカムエヴリバディ」が「ヴ」を使っています。通常、放送上の表記は「ブ」を使います。また、「バディ」も長く伸ばして発音しますので通常は「バディー」とします。しかし、番組制作担当者の判断で「エヴリバディ」となりました。このラジオ番組を担当した平川唯一さんの書いたものをもとにしたという判断があったとのことです。いわば、「カムカムエヴリバディ」をひとつの固有名詞と考えるわけです。

同様に、会社名やイベント名で「メタヴァース」が使われていたら、そのままの形で紹介して良いことになります。しかし、その場合でもNHKのコメントとして一般名詞として使う場合は「メタバース」がおすすめです。

外来語のカタカナ表記は原則に基づくことが必要で、その上でケースバイケースで考える必要があります。

メディア研究部・放送用語 石井伸壽

※NHKサイトを離れます