本を置いていない? 本が置いていない?

公開:2022年2月1日

Q
「この書店は、受験関係の本【が】あまり置いていない」という言い方は、おかしいのでしょうか。
A
文法的には許容の範囲内だと思うのですが、これよりも「この書店は、受験関係の本【を】あまり置いていない」という言い方を支持する人のほうが多くなっています。

<解説>

まず、次の2つを見てみます。

  • 「この書店は、受験関係の本【を】たくさん置いている
  • 「この書店は、受験関係の本【が】たくさん置いてある

どちらも言うことができますし、実質的な意味は同じです。ただし、「~ている」文と「~てある」文とでは助詞が異なるところ(【を】と【が】)に注意してください。

さて次に、これを否定の文にしてみます。動詞を否定形にするときには、そのうしろに「~ない」を付けるのが基本です。ですが、一つだけ例外に当たる動詞があります。そう、「ある」だけは例外的に、「あらない」ではなくて「ない」という言い方をします〔ただし「あらへん」などの形で方言ではよく使われます〕。

否定形
行く 行かない
いる いない
ある ない(× あらない)

これを適用すると、次のようになります。
Ⓐ「この書店は、受験関係の本【を】あまり置いていない
Ⓑ「この書店は、受験関係の本【が】あまり置いてない

Ⓐはまったく問題ありません。しかしⒷの「置いてない」という言い方は、外見上「い抜きことば」(話しことばで「食べてない」が「食べてない」となるもの)と同じ形になってしまうこともあり、かしこまった言い方としては受け入れられていません。

「置いてない」の代わりに、このような言い方がなされます。
Ⓒ「この書店は、受験関係の本【が】あまり置いていない

「いない」は本来「いる」の否定形なのですが、ここでは「ある」の否定として(「ない」の代わりに)用いられているというわけです〔「名前が書いてある」⇔「名前が書いていない」や「シールが貼ってある」⇔「シールが貼っていない」なども、同じ例です〕。

要するにこういうことです。「本【を/が】置いていない」というような形で2つの言い方があるのですが、それぞれ由来が異なる(「本【を】置いている」の否定vs「本【が】置いてある」の否定)のです。

(本【を】置いている⇔) Ⓐ 本【を】置いていない
(本【が】置いてある⇔) Ⓒ 本【が】置いていない

ただし、調査をしてみた結果、「本【を】置いていない」という言い方のほうを支持する回答が多くなりました。「本【が】置いてある」を否定文にしたⒸ「本【が】置いていない」はどうもあまり人気がないようで、代わりに受け身を使って「本【が】置かれていない」という言い方をすることもよくあるようです。

ぼくの書く文章には「結論を書いていない」とか「結論が書いていない」などと叱られることがあるのですが、今後とも気をつけます。

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

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