「ひとしお」の使い方

公開:2020年3月1日

Q
「(計画が成功して)とても喜んだ」の意味で、「喜びもひとしおだった」という表現を使ってもいいでしょうか。
A
「ひとしお」は、程度がいっそう増す様子を表すことばです。ただ単に、喜びの程度が大きいだけでなく、何か特別な事情や理由があって一段と程度が増しているような場合に使うのがよいでしょう。

<解説>

「ひとしお」は、漢字では「一入」と書きます。「入(しお)」は、染める物を染料に浸す回数を数えるときに使うことばで、「一入(ひとしお)」とは、もともとは「染物を染汁に1回入れて浸すこと」(『日本国語大辞典第二版』)を意味しました。そこから転じて、染め物が浸す前に比べて、よりいっそう濃く染まるように、その状況の前の段階や通常の状態に比べて、何らかの事情や理由によって、程度が一段と増しているような場合に使う表現であるといえます。

放送で使われている「ひとしお」を見てみると、例えばニュースでは、主に取材相手のコメントを紹介する文脈で、しばしば登場します。例えば、以下に挙げた用例では、それぞれ通常の状況に、当事者ならではの事情や特別な理由が加わることによって、気持ちがいっそう強くなったことを述べる場面で、効果的に使われています。

(1) 町長が「災害公営住宅の落成は町の復興の総仕上げです。完成を報告し、皆さんとお祝いできる喜びはひとしおです」とあいさつしました。

(2019年 NHKニュース)

(2) 生産者の78歳の男性は「お客さんにも食べてもらえるので思いもひとしおです。誠心誠意おいしいのりを作っていきたい」と話していました。

(2017年 NHKニュース)

(3) 大阪・堺市から来た男性は「自分で釣ったうなぎを食べるのはうれしさもおいしさもひとしおです」と笑顔で話していました。

(2016年 NHKニュース)

(1)は「(完成を町の)皆さんと祝えること」が、(2)は「(のりを生産するだけでなく)お客さんに食べてもらえること」が、(3)は「(うなぎをただ食べるだけでなく)自分で釣って食べること」が、それぞれ「喜び」や「思い」や「うれしさ・おいしさ」を一段と大きなものにしていることを「ひとしお」で表現しており、ニュースをより具体的かつ魅力的に伝えることにつながっています。

質問では、「(計画が成功して)とても喜んだ」の意味で「喜びもひとしお」を使おうとしていますが、「ひとしお」を使うなら、「一段と喜びが大きくなる理由」がはっきりわかるようなことばを添えて使うほうが、「ひとしお」という表現が“ひとしお”生きてくるといえるでしょう。

メディア研究部・放送用語 滝島雅子

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