「幕を閉じる」か「幕を下ろす」か

公開:2019年4月1日

Q
平成の時代が終わることを、「幕を閉じる」「幕を下ろす」など「幕」を使って表現したい。どちらを使えばいいだろうか。
A
どちらも「芝居が終わること」から転じて「物事を終わりにすること」という意味で使われる語です。「平成(という時代)が幕を閉じる/幕を下ろす」というように、放送では、どちらを使っても問題はありません。
「幕」といった表現を使わず、「平成(という時代)が終わる」などの表現のほうがわかりやすい場合もありますので、合わせて検討してください。

<解説>

物事の始まり、終わりを言う慣用表現や語には「幕」を使ったものがいくつかあります。

物事の始まり
  幕が開く、幕が上がる、幕を上げる、幕を開ける、幕を切る、幕を切って落とす、
  幕開き、幕開け

物事の終わり
  幕を閉じる、幕を下ろす、幕が下りる、幕を引く、幕になる、幕切れ

『大辞林第3版』(三省堂)、『大辞泉第2版』(小学館)掲載の語

さて、これらの慣用表現の多くは、歌舞伎のことばから広がったものです。歌舞伎では、何種類かの「幕」が使われますが、「幕」の種類によって、使われる動詞が異なります。例えば、「幕を切る」「幕を切って落とす」の「幕」は、舞台上方の横棒から下がっている「幕」のことで、この「幕」を下から引っ張って瞬間的に落とすことを「幕を切る」と言います。これは歌舞伎の舞台転換の際に使われ、「幕」を引っ張って落とすことで次の場面が始まるため、「物事の始まり」の意味にもなりました。

また、歌舞伎の始まりや終わりに舞台に向かって左から右に開き、右から左に閉じるのは「引幕(ひきまく)」です。「幕を引く」はこの「引幕」を閉じる動作からきています。そして、巻いて上げ下ろしをする「幕」である「緞帳(どんちょう)」が使われることもあります。「幕が上がる」「幕を上げる」「幕が下りる」「幕を下ろす」は、この「緞帳」が上下する動作を指します。「緞帳」は江戸時代にも歌舞伎の小さな劇場で使われることはありましたが、一般化し、大きな劇場にも使われるようになったのは明治時代に入ってからです。このほか、「幕が開く」「幕が閉じる」は「引幕」にも「緞帳」にも使えそうです。

なお、「幕が開く」の場合、「あく」か「ひらく」か、どちらの読みも考えられそうですが、歌舞伎などでは「あく」と読みます。また、国語辞典に掲載されている慣用表現も「あく」です。

以前、このコーナーで「幕開き」「幕開け」についてまとめたことがあります。くわしくは、「「幕開き」か「幕開け」か」(2017年2月1日公開)をご覧ください。また、「幕のいろいろ」(『放送研究と調査』2010年11月号)も合わせてご覧ください。

メディア研究部・放送用語 山下洋子

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