「~したほうがいい」?「~するほうがいい」?

公開:2019年3月1日

Q
未来のことについて「~したほうがよさそうです」という表現をよく耳にするが、「~した」という過去形を使うのは、間違いにはならないか。放送では、気象情報などで、「あすは雨具があったほうがいいでしょう」という言い方をしてしまうことがあるが、「雨具があるほうがいいでしょう」のほうがいいだろうか。
A
「あすは雨具があったほうがいい」も「あすは雨具があるほうがいい」も、どちらも日本語として正しい言い方です。「~るほうが」が中立的な言い方なのに対して、「~たほうが」のほうが、伝える側の推薦する気持ちが強く出る言い方だと言えるでしょう。

<解説>

A 「~ほうがいい」「~ほうが安心だ」などの表現では、以下の2つの言い方があります。

  1. 1)a あすは暖かい服装をするほうがよさそうです。
    b あすは暖かい服装をしたほうがよさそうです。
  2. 2)a あすは上着があるほうが安心です。
    b あすは上着があったほうが安心です。

一般的な傾向として、1)も2)も、aの、動詞の現在形(動詞のル形)が接続した形のほうが、中立的な立場で一般論を述べるときによく使われます。bの、動詞の過去形(動詞のタ形)が接続するほうが、具体的・個別的な場面で使われます。また、aのほうが、いくつかの選択肢の中から、客観的にその事柄を勧めている印象なのに対して、bのほうは、話者の推薦する気持ちが強く前面に出ている印象を受けます。

また、助動詞の「た」は、「過去」を表すと考えがちですが、「た」が表すのは「過去」だけではありません。「た」の意味の捉え方には諸説ありますが、「あすは雨具があったほうがいいでしょう」の場合の「た」は、「あすの時点で雨具を持っている」という、あすの時点での「完了」を表していると考えられます。「完了」を表す言い方を使うことで、その確実性が強調され、話し手側の気持ちが伝わる言い方になるのでしょう。

実際のニュースを見てみると、気象コーナーで気象キャスターなどが、視聴者に寄り添って伝える場面で、以下のように効果的に「~たほうが」が使われています。

  1. ・「今週いっぱいは、ちょっと寒い冬の寒さと思っていたほうがよさそうです。」
  2. ・「洗濯日和になりそうですが、洗濯物も、風で、飛ばされないように一部止めておいたほうがよさそうです。」

一方で、ニュースなどで、話し手が中立的・客観的に伝える必要がある場合は、「~るほうが」を使うべき場面もあります。

  1. ・防衛省としては、米朝首脳会談を受けて北朝鮮が直ちに弾道ミサイルを発射する状況ではなくなる中、地元の理解を丁寧に得た上で配備を進めるほうが得策だと判断したものと見られます。
    (2018年7月25日ニュース)
  2. ・宇宙エレベーターは理論上、赤道近くに設置するほうがよいとされ、東南アジア諸国は地理的に適しているうえに、自動車産業など関連する技術の基盤もあることから、日本側はタイなどが実用化に向けた有望な協力相手になると期待しています。
    (2017年6月19日ニュース)
  3. ・住宅に落雷すると、強い電流が伝わることがあるため、壁や室内の電気器具から1メートル以上、離れているほうがより安全です。
    (2018年5月3日ニュース)

ふだんは何気なく使っている言い回しかも知れませんが、放送では、伝える内容や「誰がどういう状況やスタンスで伝えるか」によって、「~るほうが」がいいのか、「~たほうが」がいいのか、ちょっと立ち止まって考えてみたほうがいいかもしれません。

メディア研究部・放送用語 滝島雅子

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