リード文はなぜ繰り返すのか?

-「反復」から読み解く放送ニュースの談話構造-

公開:2019年1月30日

放送ニュースはラジオ・テレビで広く親しまれ,近年はネットでも読まれるが,その談話構造についての言語学的な研究は少ない。本稿では,リード文の本文での「反復」を調べることで,それらの対応関係や,文と文とのつながりを探った。調査対象として,2012年のNHKニュース125本を抽出し,リード文の述部と,その反復箇所を本文から選んだ。反復は,同語だけでなく類義表現についても,事実性を重視しつつ選び,その分布(位置・順序)や表現の種類などを調べ,分析した。その結果,以下のことが明らかになった。

  • ニュース125本中,110本(88%)の本文に,合計285例の反復が現れた。関連原稿を除けば,反復はほぼすべてのニュースに現れた。
  • 反復の出現位置は,本文第2文が最も多く,次いで第1文,第3文の順だった。
  • 典型的なニュースは,リード文述部とそれに対応する本文反復が同じ順序で現れる「相似型」のものであった。
  • その順序が逆転するものには,▷反復が本文第1文の主題部で現れて本文への「流れ」を作る,「逮捕原稿」に代表される「本文冒頭承前型」や,▷本文末尾で現れて談話に「書き納め」を与える「本文末尾反復型」などがあったが,いずれも典型的でないものに含まれた。
  • 反復は,リード文の内容を表現する映像と呼応関係にあり,スタジオ画面のあとにVTR映像が来るというテレビニュースの演出そのものとの関係が深いと考えられた。
  • 典型的なニュース談話は,その主内容を,「リード文」「リード文に添えられる字幕」「本文の反復」「反復に呼応する映像」という複数の部分で伝える。その理解過程は,▷受け手はリード文とその字幕で主な伝達内容を理解し,▷次いで本文第1文で主な内容からはいったん離れるが,▷第2文で再度,伝達内容が反復として現れ,受け手は冒頭での情報理解の確実性を高める。▷そこに呼応する映像が現れ,受け手は伝達内容が現実のものであるとの確証を深める,というものになる。

メディア研究部/井上裕之

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