「菜箸」のアクセント

公開:2018年8月1日

Q
「菜箸」のアクセントを知りたい。「サ\イバシ」「サイ\バシ」「サイバ\シ」「サイバシ ̄」といったアクセントが聞かれると思うのだが、放送ではどのアクセントを選べばよいだろうか。
A
『NHK日本語発音アクセント新辞典』(2016・以下『NHK新辞典』)では、サイバ\シサイバシ ̄としています。

<解説>

『新明解日本語アクセント辞典第2版』(以下、『新明解アクセント』)の「アクセント習得法則」には次のように説明されています(以下、四角囲みは引用。アクセント記号は、『新明解アクセント』のままにした。無声化の記号は省略し、網掛けは引用者がつけたもの)。

アクセント習得法則4 Ⅱ後部が二拍の語 (引用者注:「後部」はここでは「菜箸」の「バシ(ハシ)」の部分のこと) (2)前部が二拍の語 (引用者注:「前部」はここでは「菜箸」の「サイ」の部分のこと) (イ)前部平板型―多く平板型 ○○(_)+○○(_) → 平板型 (傷口・桐箱・竹籠・鶏・鼻水)○○(_)+○○ → 平板型 (飴玉・里親・城山・庭石・水音)○○(_)+○ ○ → 平板型だが○○○ ○型も。ハナイキ(鼻息)、ミズウミ(湖)、ヒトナカ(人中)、タケバシ(竹箸) 『新明解アクセント』アクセント習得法則(p.(15))

「菜箸」は、網掛けで示した「竹箸」と同じ条件の語です。

「菜(さい)」(意味:おかず)平板型「サイ ̄」+「箸」頭高型「ハ\シ」
→サイバ\シ または サイバシ ̄

ただ、現代では「菜箸」を「サ\イバシ」というアクセントで発音する人も多いようです。これはなぜなのかを推測してみます。

推論①

漢字1字の2拍語の約8割が頭高型ですが、「菜(サイ)」は残りの2割に含まれる語で、平板型です。『新明解アクセント』の「アクセント習得法則6」の注(p.(18))には次のような説明があります。

注②古くからの語、及び日常頻繁に用いられるものでアクセントの相違が語義の区別に役立つもの、及び慣用句の一部として用いられるものなどには、平板型が残る。 ▷菜・対(つい)・肺・塀・礼(=代金)・・・ (引用者注:該当語に網掛け。例は一部省略し、該当部分のみ引用)

また、前部が2拍の漢語や2拍目に特殊拍のある語については、「アクセント習得法則4」(『新明解アクセント』p.(15))に「前部が起伏式の漢語及び第二拍が特殊な拍のものには頭高型がみられる」という注があります。

「菜(サイ)」は、伝統的には平板型「サイ ̄」ですが、多くの漢字1字の2拍語と同じ「サ\イ」と解釈された結果、前部が起伏式の漢語として、頭高型「サ\イバシ」と発音されるようになってきていると解釈できるかもしれません。

推論②

「菜箸」のような複合名詞のアクセントは、前部が2拍以下の語の場合、多くは前部要素の最後の拍に核がくる「前部末型」アクセントです。例外もあり、たとえば、「菜箸」のように、後部要素(ここでは「箸」)が頭高の2拍語の場合は、後部要素の最初の拍に核がくる「後部一型」アクセントになります。

伝統的には「後部一型」アクセントの語が「前部末型」アクセントに変化することも多くなっています(例:パトカ\ー ⇒ パト\カー)。「菜箸」も、「前部末型」アクセントと解釈され、「サイ\バシ」になり、二重母音「ai」のために、さらにアクセントが前にずれて「サ\イバシ」になったとも考えられそうです。中には、「サイ\バシ」と発音する人もいます。そうした実態を考えると、こうした解釈もできそうです。

いずれも推論です。特に推論①については、「おかず」を意味する「菜(さい)」が本当に「サ\イ」と頭高で発音されるようになっているのかはわかりません。「菜(サイ)」のアクセントは『NHK新辞典』『新明解アクセント』などいずれの辞書でも平板型であり、実際の発音を調べる必要があります。

いずれにしても、「サ\イバシ」のアクセントは今のところ、『NHK新辞典』と、そのほかの、アクセント辞典、国語辞典には掲載されていません。
放送で使う場合は「サイバ\シ」「サイバシ ̄」をおすすめします。

なお、『NHK新辞典』のアクセント記号の読み方は、文研ウェブページの「NHK日本語発音アクセント新辞典Q&A」に掲載されています。あわせてご覧ください。

メディア研究部・放送用語 山下洋子

※NHKサイトを離れます