「飛び抜けて『弱い』」?

公開:2018年7月1日

Q
「飛び抜けて『弱い』」という言い方は、おかしいのでしょうか。
A
伝統的には、「飛び抜けて」の後ろにはプラスの意味のことばがくるのが普通です。「弱い」のようなマイナスの意味のことばが続くのは、どちらかというと新しい用法です。

<解説>

「飛び抜ける」は、そのことばのとおり、「飛んで抜ける」というところからできたことばです。「飛ぶ」というのは「上のほうに行く」ことで、「抜ける」はある平均的な(どんぐりの背比べ的な)集団から離れていくことだと言えます。そして、このような具体的な意味から、「ある集団と比べて格段に秀でている」というやや抽象的な意味・用法が派生してきたのだと考えることができるでしょう。こうしたことから、「飛び抜ける」は、もともとイメージとして「上のほうに行っている」つまり「プラスの評価」と結びつきやすいものです。

ウェブ上でおこなったアンケートの結果では、「(このチームは)飛び抜けて強い」は正しいけれども「飛び抜けて弱い」はおかしいという答えが、非常に多く見られました。ただし年代差があり、「両方とも正しい」という答えの割合が、若い人になるほど大きくなっています。「飛び抜けて」は、プラスのことについて使うのが一般的だったのが、プラス・マイナス問わず両方とも普通に使えるように変化し始めているのかもしれません。

このような用法の変化は、ほかのことばでも、よく起こっています。例えば「ひどく」ということばを取りあげてみましょう。これは、「非道(ひどう)」という漢字のことばから「非道(ひど)い」という形容詞が生まれ、それを活用させて「非道(ひど)く」となったものです。「道に(あら)ず」ということから、本来は「むごい・残酷だ」というようなマイナスのニュアンスを強く帯びていました。昔はマイナスの意味のことばにだけ使うものだったのですが、時が経つと、こうしたことはあまり意識されなくなってきました。例えば、「幼い頃から、ひどく犬が好きで」(太宰治(1946)『日の出前』)のような例がありますが、プラスのニュアンスがある「好きだ」ということばに「ひどく」が付く例は、比較的近年のものです。

また、少し俗なことばかもしれませんが、「めちゃくちゃ」も、「まったくでたらめだ」というもとのマイナスの意味から離れて、「めちゃくちゃうれしい」「めちゃくちゃおいしい」などのようにプラスの意味の場合にも用いられるようになっています。

「飛び抜けて」も、いずれは、プラス・マイナス関係なく普通に使われるようになるかもしれません。ですが、少なくとも現時点での相場としては、「飛び抜けて弱い」のような言い方には、抵抗感を覚える人が少なくないのです。

「飛び抜けて」に関連して、あか抜けたオチで終わりたいと思ったのですが、どうも間の抜けたものしか思いつかないので、このへんでやめておきます。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2016年3月~4月実施、742人回答)

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

※NHKサイトを離れます