似かよう? 似かよる?

公開:2018年6月1日

Q
似かようところがある」「似かよるところがある」の、どちらを使うのがよいのでしょうか。
A
「似かよう」のほうが伝統的な形です。

<解説>

この動詞は、どちらの形を使ったらよいのか、迷いやすいものです。ウェブ上でおこなったアンケートでは、「『似かよう』は正しい(『似かよる』はおかしい)」という人が48%、「『似かよる』は正しい(『似かよう』はおかしい)」という人が28%でした。これがなぜ迷いやすいのかを説明するのには、少々込み入ったお話をしないとなりません。心苦しいのですが、どうかお付き合いください。

まず、「音便(おんびん)」というもののお話をします。例えば「立つ」の過去の形は、古い日本語では「立ちたり」と言っていました。その後、「立ち」のところが「立っ」と変化し、「たり」(助動詞)が「た」に変わって、現代語「立った」が生まれました。この「立ち」が「立っ」に変化するような現象は、「音便」と呼ばれています。音便にはいくつかのパターンがありますが、そのうち「っ」が出てくるものを、特に「促音便」と言います。

立ち → 立っ 【促音便】

音便は、動詞や形容詞を活用させたときによく現れます。五段活用の動詞の場合、3種類の音便が出てくるのです。

  1. 〔促音便〕「っ」が出てくるもの:終止形が「-つ」「-る」「-う」である動詞
    「立った(←立つ)」「走った(←走る)」「買った(←買う)」
  2. 〔撥音便〕「ん」が出てくるもの:終止形が「-ぬ」「-ぶ」「-む」である動詞
    「死んだ(←死ぬ)」「学んだ(←学ぶ)」「読んだ(←読む)」
  3. 〔イ音便〕「イ」が出てくるもの:終止形が「-く」「-ぐ」である動詞
    「書いた(←書く)」「泳いだ(←泳ぐ)」

さてここでは、促音便について見てみましょう。このルールをもとにすると、例えば「立った」という形だけを見た場合、動詞の終止形は、「立つ」かもしれないし、「立る」かもしれないし、あるいは「立う」かもしれないことになるのです。しかし、普通はそのような迷いは出てきません。なぜなら「『立った』の終止形は『立つ』だということを知っている」からです。「立った」と同様に「立つ」を耳にする機会が多いため、間違うことはないのです。

ここでやっと、ご質問の「似かよう」のところに到着しました。ふだんの生活で、「(これとこれは)似かよう」〔終止形〕とか、「似かようところがある」〔連体形〕などというような言い方を耳にすることは、よくあるでしょうか(現代語の動詞では終止形と連体形は同形)。それよりも、「似かよった状況」「似かよっている」のような促音便の形のもののほうが、断然多いのではないでしょうか。そのため、終止形・連体形が、「似かよう」なのか、あるいは(「似かよつ」はなさそうですが)「似かよる」なのかが、迷いやすくなるのです。「-る」で終わる動詞はもともと非常に多いことが、さらに後押ししています。

同じようなものに、「(枝がよく)しなう~しなる」「はいつくばう~はいつくばる」などもあります。迷う理由は、「しなった枝」「はいつくばって、いったい何を探しているのか」などの促音便形で使われることが多いからです。これも「しなう」「はいつくばう」のほうが伝統的な形です。

今回の音便などの話、わかりにくくてご立腹かもしれません。どうか穏便に。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2018年2月~3月実施、322人回答)

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

※NHKサイトを離れます