「おいてきぼり」? 「おいてけぼり」?

公開:2018年2月1日

Q
「おいてきぼり」と「おいてけぼり」、どちらを使ったらよいのでしょうか。
A
現状では、どちらを使っても差し支えありません。現代では、どちらかというと「おいてけぼり」を使う人のほうがやや多いようです。

<解説>

まず、このことばの語源について説明します。かつて「おいてけ堀」という池が江戸本所(現在は東京都墨田区)にあり、ここで釣りをすると水中から「置いてけ、置いてけ」という声がしてきて、魚を全部返すまでやまなかったという話が伝えられています(『日本国語大辞典 第二版』小学館)。この池の名(つまり「固有名詞」)「おいてけぼり」が、その後「おきざりにされる」という現代よく使われる用法で使われるようになったものです。

つまり、「おいてけぼり」のほうが最初にあった形です。のちになって、「おいてきぼり」という言い方も出てきたのです。

その後、伝統的な「おいてけぼり」よりも、あとから生まれた「おいてきぼり」のほうが主流になってきたものと考えられました。1951(昭和26)年のNHKのアクセント辞典では「①オイテキボリ、②オイテケボリ」と示されていたのですが、1965(昭和40)年の放送用語委員会で「○オイテキボリ、×オイテケボリ 〔ただし地名は「オイテケボリ」〕」というように規定が変更されたのです。

さて、現代ではどうなっているでしょうか。ウェブ上で尋ねてみたところ、意外なことに、「おいてけぼり」のほうが若い人を中心に支持されていることがわかりました。50年以上前の「○オイテキボリ、×オイテケボリ」という規定は、もはや見直さなければならないと考えます。

そもそも、「おいてきぼり」という形が新たに生まれてきたのは、「複合語の中に動詞を用いるときには、連用形が基本」という傾向によるものです。どういうことかと言うと、たとえば「飲み放題」「触り心地」「寝正月」という複合語での「飲み・触り・寝(ね)」は、「飲む・触る・寝る」という動詞の連用形です。一方「おいてけぼり」の「置いてけ」は、「置いて行く」の命令形で、複合語の一要素としては例外的なものです。「置いて行く」の連用形は「置いて行き(→置いてき)」であり、こちらのほうが複合語中の形としてすわりがいいと感じられたことで「おいてきぼり」という形が生まれたのでしょう。

一方、現代では「振り込め詐欺」「いけいけギャル」のように、例外的に命令形が複合語中に用いられることも、しばしば観察されます。こうしたことが、「おいてけぼり」の復権につながっているのでしょうか、いやたぶん違うと思います。だれか教えてください(←こういうのを「教えてくん」と言う)。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2017年10月~11月実施、400人回答)

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

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