「お正月」?「正月」?

公開:2018年1月1日

Q
番組で正月料理を特集します。放送でのことばの使い方として、「お正月」と「正月」、「お雑煮」と「雑煮」のどちらが適切でしょうか。
A
どちらも放送で使いますが、この場合は、「正月」というハレの日の料理について伝える内容なので、「お正月」「お雑煮」でよいでしょう。番組の性質や、伝え手・視聴者層の性別などを考慮して判断してください。

<解説>

「お正月」「お雑煮」などのように、名詞に敬語接頭辞の「お」(「ご」)が付いた語を「美化語」と言います。「敬語の指針」(文化審議会答申 2007)では、敬語の5分類の1つとされ、「ものごとを、美化して述べるもの」と説明されています。NHKでは、放送の中でも特にニュースなどでは、このような、ものごとをきれいに述べる「お」は、なるべく省き、すっきりとした表現を目指すのが基本とされています。しかし、美化語の中には、一般的には、すでに、「お」(「ご」)が付いた形で、通常語と同じ程度、定着している語(「お茶」「お菓子」「おひる(昼食)」など)があります1)。「お正月」もその1つです。2009年にNHK放送文化研究所で行った調査で、放送でアナウンサーが「お」を付けて使ってもおかしくないかどうか尋ねたところ、84%の人が「おかしくない」と答えました。逆に、こうした語は、「お」を付けずに言うとかえってぞんざいな印象を与えたり、特定のキャラクター(「無骨な人物」など)を連想させたりすることがあります。特に、女性が発話したり、女性に向けて伝えたりするときは、「お」を付けたほうが自然な場合が多いので注意が必要です。ご質問のケースでは、例えばナレーションや視聴者層が女性であれば、「お正月」のほうが違和感が少ないでしょう。

また、正月関連のことばには、「おせち」「お年玉」「おとそ」「お雑煮」「お餅」など、「お」が付いて使われるものが多くあります。その定着の仕方にも段階があり、例えば「おせち」は、もともとは「女房ことば2)」で「御節」と書き、「節の日に作るごちそう」のことを指すことばでしたが、現代では「正月料理」に限定して使われるようになりました3)。また、「お年玉」の「年玉」は、本来、歳神様に供えられ、人々に分けられるもの、すなわち、神から配られるものだと考えられていました。それが、正月時の一般の贈り物とその返礼などにも適用され、今日の「お年玉」につながっているとされています4)。「おせち」や「お年玉」は、語として定着しており、もはや「お」を付けた形でしか使われません。一方、「おとそ」や「お雑煮」「お餅」は、「お」を付けても付けなくても使われるため、使用時には判断が必要ですが、一般的には「お」が付いた形のほうがよく使われているようです。正月関連のことばに「お」が付く語が多いのは、日本人にとって「正月」は風俗習慣として大切であるという気持ちが、「お」に表れているからだとも言えるでしょう。もちろん、事件性がある事柄や事実を客観的に述べる場合は、「お」を省いたほうがよい場合もありますが、「お」を付けて伝えるほうが適切な場面もあります。その語をどんな場面で使うのか、誰が誰に伝えるのか、という点を考慮して判断するとよいでしょう。

  1. 1)佐藤武義・前田富祺他編『日本語大辞典』(朝倉書店 2014)による。
  2. 2)「昔、宮中の女房が使った、特別のことば」(『三省堂国語辞典第七版』)。
  3. 3)辻村敏樹編『敬語の用法』(角川書店 1991)による。
  4. 4)『ブリタニカ国際大百科事典』(ロゴヴィスタ株式会社 2011)による。

メディア研究部・放送用語 滝島雅子

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