「お金がいった」は、おかしい?

公開:2017年11月1日

Q
「そのころ、とにかくお金がいった」という言い方は、おかしいのでしょうか。
A
もともと普通の言い方なのですが、近年、おかしいと感じる人も増えています。代わりに、「お金が必要だった」「お金がいる状況だった」などのように言うこともできます。

<解説>

かたくるしい話から入ると、「要った(イッタ)」は、ラ行五段活用の動詞「要る(イル)」の過去形です。たとえばこのように使われています。

「私は伊根子に声をかけるのに少々勇気が要ったが、呼びかけてからは、言葉はすらすらと出た。」

(辻邦生『椎の木のほとり』1988年)

ところが、これはこのところあまり使われなくなっているようなのです。

ウェブ上でアンケートをおこなったところ、「いま、とにかくお金がいる」という現在形は「おかしい」と感じる人はほとんどいませんでした。一方「そのころ、とにかくお金がいった」という過去形では、「正しい」と「おかしい」の回答がほぼ半々でした。

そして年代別には、「『いった』はおかしい」という回答が若い人になるほど多くなっていました。「いった」がだんだん廃れつつあるから、このようになっているのです。

またこの変化は、おもに東日本で先に進行しているようです。東海・甲信越や西日本では、「両方とも正しい」という回答のほうが上回っています(いずれも「小学生のときに住んでいたところ」が基準)。

なぜこのような状況になっているのでしょうか。想像なのですが、「イッタ」という形を持つことばは、「要った」だけでなく「行った」や「言った」もあります(つまり「同音異義語が多い」)。このうち「行った」と「言った」は非常によく使うことばで、この2つだけでもややこしいのに、そこに「要った」まで入ってくると大混乱になるので、避けられているのかもしれません。なお西日本では、「行った(イッタ)」vs「言うた(イウタorユータ)」と区別して発音するところが多く、「イッタ」で混乱する余地が比較的小さいために、「要った(イッタ)」も健闘しているのでしょう。

今回は特にむずかしい内容でした。最後まで読むのに集中力がいったと思います。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2016年5月~6月実施、589人回答) (小学生のときに住んでいたところ)

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

※NHKサイトを離れます