「ご利用できます」は敬語の誤用?

公開:2017年9月1日

Q
「ご利用できます」「ご参加できます」「ご乗車できません」は誤用でしょうか?
A
「ご(お)~できる」は、謙譲語「ご(お)~する」の可能を表す言い方なので、尊敬語として使うのは、誤用とされています。放送では避けるべきでしょう。尊敬語にするなら、「ご(お)~になる」の可能表現である「ご(お)~になれる」を使うのが正しい用法です。

<解説>

「ご(お)~できる」を尊敬語として使うのは、一般的には誤用とされていますが、日常の場面では、以下の様な言い方を、よく耳にするのではないでしょうか。
「今なら、すぐにご利用できます
ご乗車できませんので、ご注意ください」
「こちらのメニューは、お持ち帰りできます
「どなたでもお気軽にご参加できます
「今なら、安値でお求めできます

こうした言い方は、世の中で使われているうちに、耳慣れてしまった表現だと言えるでしょう。平成16年度の文化庁の「国語に関する世論調査」でも、「ご乗車できません」について「正しく使われていないと思う」と答えた人は、3割弱(27.4%)でした。平成9年度の調査(30.5%)との比較から、「誤用」と捉える人は次第に減る傾向にあると見ることができます。

(「平成16年度 国語に関する世論調査」(文化庁)より ※()内は、平成9年度調査結果

では、なぜ、こうした誤用の表現がよく使われるのでしょうか。理由の1つとして、「利用する」「参加する」「乗車する」などの動詞の性質が挙げられます。これらの動詞は、「ご(お)~する/できる」の形の謙譲語としては、一般的には使われません。それに対して、「説明する」「案内する」などの動詞は、「ご説明する/できる」「ご案内する/できる」という謙譲語の形で使われます。「説明する」「案内する」は、「だれに対して」という、その動作が及ぶ先の相手がいる動詞ですが、「利用する」「参加する」「乗車する」は、その動作が及ぶ先の相手がいないタイプの動詞だという違いがあります。謙譲語として使うべき「ご説明する/できる」を尊敬語として使った場合、その対比から「誤用」だとわかりますが、「ご利用する/できる」はそもそも謙譲語として使われないので、尊敬語として使ってしまっても、誤用とは感じられにくいのだと考えられます。今後、次第に使用が広がる可能性もありますが、敬語の「誤用」であることには変わりないため、放送で使うことばとしては適切ではないでしょう。

とはいえ、尊敬語の「ご乗車になれません」は、やや堅苦しいと感じる場合もあるかもしれません。これにかわるほかの言い方として、まず、「乗車」を動詞ではなく名詞と捉え、助詞の「は」を加えて、「ご乗車はできません」とすれば問題ありません。また、場面によっては、相手の動作によって自分が恩恵を受けることを示す「いただく」の可能の形「いただける」を使って、「ご乗車いただけません」と言いかえることもできるでしょう。

言い方は1つではありません。実際に表現する場面の具体的な状況にあわせて、よりふさわしい表現を探していくことで、よりよいコミュニケーションにつなげていきたいものです。

(参考)『敬語表現』蒲谷宏・川口義一・坂本 惠(1998)大修館書店

メディア研究部・放送用語 滝島雅子

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