「足を洗う」? 「手を染める」?

公開:2016年10月1日

Q
「足を洗う」「手を染める」という言い方は、どちらも「悪いこと」について言うことばなのでしょうか。
A
「足を洗う」は、「悪いことをやめる」という意味です。一方「手を染める」は、かつては「なにかをし始める」というニュートラルな使い方がされていたのですが、近年では「悪いことをし始める」というように限定的に使われる意識が強いようです。

<解説>

まず「足を洗う」は、はだしで外を歩いたあと、建物の中に入るときに「足を洗う」ことから出てきたことばです。一説には、修行僧が汚れた足を洗い、俗世間の煩悩を洗い清めることに由来すると言われています。

一方「手を染める」のほうは、諸説ありますが、この「染める」は「()める」と同じ語源だという考えがあります。「はじめる」という意味で、現代でも「書き初め・お食い初め」などのことばに残っています。「手」はいろいろな慣用句に用いられる語で、「手を染める」の「手」には、体の一部としての「手」の意味はあまりないかもしれません。

次の例をご覧ください。ここでの「手を染める」は、「手がける」とほとんど同じ意味で使われています。

要するに普通世間に行き亘っている範囲では、読み本にも、浄瑠璃にも、芝居にも、ついぞ眼に触れたものはないのである。そんなことから、私は誰も手を染めないうちに、自分が是非共その材料をこなしてみたいと思っていた。

(『吉野葛』(谷崎潤一郎、1931年))

「足を洗う」「手を染める」について、ウェブ上で調査をおこなってみました。「足を洗う」はもともと「悪いことをやめる」という意味ですが、本来の用法とは異なる使い方を認める意見も、少し見られます。

それに対して「手を染める」は、もともとはニュートラルな表現だったのに、現代では、悪いこと以外に用いるのはおかしいといったような意見が圧倒的多数になっています。

つまり「手を染める」は、「悪いこと」に限定する方向に用法が変化したようです。その理由は、うーん、よくわかりません。ご飯を食べてからじっくり考えてみます。ちゃんと手を洗ってから。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2016年5月~6月実施、589人回答)

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

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