「『せいぜい』がんばって」?

公開:2015年6月1日

Q
上司から「せいぜいがんばって」と言われて、嫌な気分になりました。
A
「せいぜい」には、もともとは悪い意味はありませんでした。しかし近年では意味の変化が進んでいるので、使う場合には(そしてそれを聞き手として解釈する場合にも)注意が必要です。

<解説>

「せいぜい」は、漢字で「精々(精精)」と書きます。字を見ても想像されるとおり、「がんばって」「一生懸命」「力を振り絞って」というのが、本来の意味です。

「ソップも牛乳もおさまった? そりゃ今日は大出来(おおでき)だね。まあ精々食べるようにならなくっちゃいけない。」

(芥川龍之介「お律と子等と」1920(大正9)年)

「上等のかつおぶしを、せいぜい薄く削り、わさびのよいのをネトネトになるよう細かく密におろし、思いのほか、たくさんに添えて出す。」

(北大路魯山人「夏日小味」1931(昭和6)年)

このように、「せいぜい」はもともとは積極的な意味で「がんばって」という意見を示すものでした。これに対して、時代が下ると「(まあ、がんばったところで)たいしたことはないだろうが」というような、マイナスのニュアンスが伴うようになってきたのです。

「どこで泣こうと涙の勝手 知ったことじゃないけれど
あんたの前じゃ泣きやしないから せいぜい安心するがいい」

(中島みゆき作詞「てんびん秤」1994(平成6)年)

ウェブ上でおこなったアンケートでも、「せいぜい」の解釈をめぐって年代差があることが見て取れます。「せいぜいがんばってください。」という言い方に対して、60歳以上の人たちでは「『いやみ』または『応援』の、どちらのつもりで言っているのかは、その場面によって異なる」という回答が4割程度を占めているのですが、20代ではわずかに2割程度です。若い人たちの間では、「いやみとして言っている(言った人に、純粋に応援する気持ちはない)」という回答が、圧倒的に多いのです。

ぼくは、ほかの人から「ま、これからもせいぜいがんばって」と言われても、凹んだりしていません。あ、この人は伝統的な日本語を守っているんだな、と尊敬するようにしています。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2015年2月~3月実施、1004人回答)

メディア研究部・放送用語 塩田雄大

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