戦前の「講談調」野球実況はなぜ人気となったのか

~放送種目割合や聴取者意向から検証する~

公開:2018年4月1日

本稿では、1930年前後に大人気となった松内則三アナウンサーの「講談調」の野球実況について、これまでにないアプローチでその人気の背景の再分析を試みた。

本稿ではまず、「報道」「教養」「娯楽」などの放送番組の種目割合の時系列変化に注目した。そして、「娯楽」の割合が減少している時期とこの実況の全盛期が重なることを示したうえで、これをベースとして以下の3つの視点から人気の背景を探った。

【①聴取者】聴取者は「娯楽」を求めていたが、実際の放送では十分に供給されておらず、「娯楽」の少なさに不満を持っていた。【②松内則三】アナウンスのあり方において常に聴取者の意向を重視していた松内が、野球実況を「講談調」にした理由の一つに①が関係した可能性が高い。【③日本放送協会】聴取者加入が外国に比べて進まない要因の一つは「娯楽」の少なさだと認識していたと思われるが、「社会の公器」という建前上、いたずらに「娯楽」を増やすわけにもいかなかった。そこに登場したのがこの実況であり、客観性に疑問符がつくアナウンスながらも容認する姿勢をとったと推察される。

先行研究で指摘されているように、この実況の人気の背景には、「講談調」という日本人になじみのある口調が広く受け入れられたことがあるのは間違いない。これに上記の3つの視点を加えることで、この実況の誕生と継続の解釈に厚みが増し、従来の野球ファン以外を取り込んで大人気となった背景をより明確にできるのではないだろうか。

メディア研究部 小林利行

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