香港,デジタルラジオ局がまたも閉局へ

香港のデジタルラジオ局DBC(Digital Broadcasting Corporation)は8月8日,経営不振を理由に,香港政府に対してデジタルラジオ免許の返上を申請した。

山地が多い香港では,車中でラジオのアナログ放送を聞くには頻繁に周波数帯域を変える必要があるが,デジタル放送なら1つの帯域で聴取できるメリットがあり,音質の改善や文字情報サービスの提供と共に,香港政府がラジオ放送のデジタル化を推進する理由とされてきた。政府は2010年,申請のあった3社に12年間のデジタルラジオ放送免許を交付することを決め,2011年以降,これら3社と公共放送のRTHKが相次いで放送を開始した。

ところが2015年9月,フェニックステレビ系の「鳳凰URadio」が経営不振を理由に免許返上の方針を表明,11月に総合・音楽の2チャンネルの放送を終了したのに続いて,2016年8月には,7チャンネルを運営してきた最大手のDBCが,同様に経営不振を理由に免許返上の申請を政府に提出,9月7日付で113人の社員を解雇することになった。

香港でデジタルラジオ局の経営が難航しているのには,さまざまな理由が指摘されており,その1つが政府の政策的支援の不足である。香港政府はアナログ放送終了期日の目標を設定していなかったが,専門家の中には,政府が欧州の一部の国のように,アナログラジオ放送終了の目標期日を設定し,市民に対してデジタルラジオ受信機の購入を促すべきだったとの見方がある。これについてはDBCの関係者も,政府の支援がなくデジタルラジオ局の広告収入が伸びなかったと指摘している。また,RTHKのデジタルチャンネルの大部分がアナログと同じ内容で,放送局のコンテンツもアナログからデジタルへの切り替えを促すものになっていなかったところがある。

さらに,最近香港でインターネットラジオが急速に普及していることも大きな要因と見られている。現在50社以上あるとされるネットラジオ局は,デジタルラジオ局と違って政府当局から免許を得る必要がない。香港ではここ数年,中国政府の影響力によって,中国政府や香港政府に批判的な報道が減少しており,中でも政府の免許を必要とするテレビやラジオの放送局は問題が深刻とされている。

こうした中,初期投資がデジタルラジオより大幅に少なくて済み,報道・言論の自由にも特に制限がないネットラジオは,デジタルラジオにとって強力な競争相手となっており,その典型的な事例がD100である。D100は,もともとDBCの創業者であった鄭経翰(Albert Cheng)氏が,政府批判を理由にDBCの大株主から追加出資を拒否されて放送休止を余儀なくされ,自らが所有する株式を売却しDBCから撤退した上で新規に始めたネットラジオ局である。D100は2012年12月に立ち上げた後,複数のチャンネルで毎日24時間番組を送信し,2015年3月の段階で既に聴取者が50万人以上,従業員が50人弱,フリーランスの司会者を含めれば100人近い体制を作った。鄭氏はDBCが閉局に追い込まれたことについて,「問題は政府の政策ではなく,コンテンツにある。香港の行政長官や政府の政策について,忌憚なく批判できるコンテンツこそ市民が求めるものだ」と指摘,香港政府に遠慮するDBCの経営が破たんしたのは自業自得との見方を示した。

山田賢一

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