ポスト真実 Post-truthの時代とマスメディアの揺らぎ

~その構造的理解のために,米国大統領選挙2016を事例として~

公開:2017年11月1日

昨年(2016)の英国のEU離脱国民投票、米国大統領選挙などで顕在化したいわゆる「ポスト真実の時代」と呼ばれるメディア現象は、特定の政治的利害を共有する勢力がフェイクニュースなどの虚偽情報をSNSを中心に大量に拡散させることで、社会的な情報攪乱、敵対勢力の権威失墜、社会の分断などを引き起こし、世論の操作や公的機関、マスメディア報道への人々の信頼の失墜を試みる、極めて政治的、組織的な現象であったことが内外の調査から明らかになっている。本稿ではこの「ポスト真実」的メディア状況の生成条件(構造)について、主に昨年の米大統領選挙のトランプ陣営のITメディア戦略を事例にメディア論的視座からの分析を試み、以下の知見(仮説)を得た。米国ではニュース等の情報流通プラットフォームがSNSへ移行しつつあり、またそのビッグデータ解析によって人々の「集合的感情」の可視化や、個々人の<情動>に最適化された情報発信が可能になった。これらが従来の<情報の送受信>を基盤とするメディア・コミュニケーションを<情動の共有/感染>を基盤とするものへと変容させつつある。トランプ陣営はこの変容を察知し、フェイクニュースを拡散させる諸勢力とも連携して「情動」を「媒質」にした、あらゆるメディアを横断する「情動/メタ・マスコミュニケーション」とも呼ぶべきメディア戦略を実践。その結果「事実」よりも「感情」への訴えかけが世論形成に強く影響する「ポスト真実の時代」という新たな「メディア現象」が社会に浸透し、選挙報道の公共的機能が弱体化させられる事態となった。

メディア研究部 伊吹 淳

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